宇土市、庁舎建て替え検討中の損壊 〜連鎖地震 熊本の教訓

 度重なる激震に耐えられず、災害時の司令塔機能が失われた。震度7を2度観測し、激しい余震活動が続いた熊本地震では自治体庁舎の損壊が相次ぎ、被災者対応やその後の業務に大きな支障が出た。市庁舎の一部の階がつぶれ、立ち入りができなくなった熊本県宇土市の幹部は悔いる。「地震に備えられるよう、建て替えの協議をしているところだったのに」 震度5強だった前震(4月14日)では、壁にひびが入る程度だった。6強の本震(同16日)で4階がつぶれ、次々と窓が割れた。倒壊の危険があると判断し、立ち入りを禁じた。

 1965年完成の宇土市役所本庁舎(5階建て)。2003年度の耐震診断では震度6程度で大破するとの判定が出ていた。市まちづくり推進課の光井正吾課長は肩を落とす。「建物の構造が複雑で改修は難しいため、建て替える方向で協議していたのだが…」 前震後、業務を別館に移し住民票発行などの窓口業務を継続。さらに災害対策本部を設置するところまでは事前の計画通りだった。しかし、本震で激しく損壊した本庁舎が倒れると別館に被害が及ぶ恐れがあり、駐車場にテントを張って対策本部を移した。

 「50人ぐらいの職員でコピー機や机、椅子、パソコンなどを移動させ、別館からLANケーブルをつないだ」。ところがテントではスペースが足りず、雨もしのげないため、避難所に指定していなかった市民体育館へさらに移った。

 段ボールで棚や相談スペースをつくり、足りない事務用品は隣の自治体に借りにいく。「今、できることを必死にやっている」と光井課長。「体育館から早く出ていかなければ」と思うものの、仮庁舎の着工のめどは立っていない。

 益城町は事情が異なる。役場の本庁舎(3階建て)は前震では大きな損傷が確認されず、本震で外壁がひび割れ、エレベーターが傾いた。

 町総務課の岩本武係長は言う。「耐震化の効果は間違いなくあった。想定外だった震度7が2回起きても立っているんだから」。東日本大震災後の2012年度に耐震改修を行ったばかりだった。

 だが、前震で電源が喪失し、対策本部は庁舎前に設置。本震後に倒壊の危険があるとの判断からいったんは退避命令を出した。その後の応急危険度判定で、エレベーターや渡り廊下に立ち入らなければ使用可能と評価されたため、現在は庁舎に戻っている。

 それでも、本震で住民情報の管理システムが壊れ、住民票や健康保険証などの交付ができない状態が続く。岩本係長は苦しい胸の内を明かす。「1週間ごとに被災者が必要とする支援は変わってきているが、目の前のことで精いっぱいで対応できていない。町民には本当に申し訳ないと思っている」

© 株式会社神奈川新聞社