【コラム・天風録】ミスター・ドラゴンフライズ

 創設2年目のクラブは経営が綱渡り。チームも日本を代表するバスケットボール選手の自身も、広島では知名度が低かった。ひげ面の大男が真っ昼間、汗みどろで走っている姿は、近所の子どもから不審がられたらしい▲9年前の加入当時のこと。広島ドラゴンフライズの朝山正悟選手が昨年のイベントで述懐していた。何より驚いたのは広島東洋カープの暮らしへの浸透ぶり。「これだけスポーツに思いを寄せてくれる土地柄なら一生懸命やれば絶対根付く」と誓う▲選手以外の広報や営業の役割も担った。監督不在の非常事態にはBリーグ初の兼任監督も引き受けた。ランニング中に「頑張って」と声がかかるようになった。チームのためなら何でもやったミスター・ドラゴンフライズ▲42歳になり、引退を公言して今季を迎えた。きのう地元でのリーグ最終戦に出場。白星で飾れなかったが終了間際、3点シュートを成功させた。名シューターのチームへの献身を、バスケの神様は見ていたに違いない▲チームは前日にチャンピオンシップ進出を決めた。ベンチで大喜びする姿がカープの新井貴浩監督とダブって仕方ない。ドラフラを指揮する日を楽しみに待ちたい。

© 株式会社中国新聞社