改良型「救命いかだ」 を知床ウトロを拠点にする観光船に3隻搭載 海水に濡れずに乗り移ることが可能…搭載義務化の方針は費用負担の問題もあり当面見送り

初夏の観光シーズンを前に船の安全の取り組みがまた一歩進みました。知床・ウトロを拠点とする観光船に7日、新しい「救命いかだ」が取り付けられました。

北海道東部の厚岸町にある造船所。カプセルのようなものが、小型船に取りつける「救命いかだ」です。

2022年、知床半島沖で観光船「KAZUⅠ」が沈没した事故を受け、同じ斜里町ウトロ漁港を拠点とする小型観光船「おーろら3」に搭載されることになりました。

救命いかだメーカー
「強く引けば、いかだが外れるように改良した」

新しい「救命いかだ」は、海で広げたあと、船に2か所で固定する仕組みで、乗客が海水に濡れることなく、船から直接いかだに避難できるよう改良されています。

7日は、作業員が船の定員66人分の「救命いかだ」3隻を船に取り付けました。

アール・エフ・ディー・ジャパン技術部 西紀美男部長
「屋根が付いていてて断熱性がある、救命いかだの機能としては0℃の気温・海水温で、乗り込むと中は20℃になる設計。海で水中待機せずに、直接乗り込める…そこを目標にして改良しました」

7日、JCI=日本小型船舶検査機構による点検も行われ、運航会社によりますと指摘事項はなかったということです。

「おーろら3」は北海道運輸局の安全点検などを経て、5月中旬以降に今シーズンの運航を始める見込みです。

■【国は義務化の方針だが…】
2年前の沈没事故で死亡した20人は、海に投げ出されて、低体温症で意識を失い、溺れたとみられています。

このため国は、船から直接乗り移ることができる改良型の救命いかだを、小型の観光船に搭載するように、4月にも義務化する方針でした。

しかし、開発の遅れや費用負担に反発の声が上がったことなどを理由に、義務化は「当面の間」見送られることになりました。

■【観光船の運営業者の声は…】
改良型「救命いかだ」の義務化について、北海道内の観光船業者に尋ねると、次のような声が…。

・「経済的負担はあるが、安全のために仕方ない」
・「いかだを載せることで、船のスペースが限られ乗船定員が減ってしまう」
・「コロナ禍で売り上げが半減している。国の補助金は出るものの、全額補助ではないので金銭的負担は大きい」

「救命いかだ」の維持費も業者の負担となります。

事故があったからには、安全対策は万全にしないといけない一方で、小型の観光船業者は中小企業も多く、金銭的負担も含めて国は、現場の声を聴いて施策を考えてほしいとの声もあります。

改良型「救命いかだ」は、乗客の安全・安心につながるものですが、天候チェックや船の点検など「救命いかだ」を使う状況にならないよう、運航側の安全対策が大前提となります。

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