地域事情に合った脱炭素に向けて、自治体がプラットフォームのコーディネーターに

脱炭素社会の実現に向け、企業が地方自治体をフィールドに実践に乗り出す事例が増えている。ビジネスとして成立するスキームと、地域固有の課題解決を両立するポイントはどこにあるのか。SB国際会議2024東京・丸の内と同時開催された「第6回未来まちづくりフォーラム」のパネルディスカッションでは、脱炭素に取り組む各企業と、国として支援を進める環境省が集い、ハブとしての役割を期待される自治体との連携について意見を交わした。 (横田伸治)

ファシリテーター
菅原 聡・一般社団法人Green innovation 代表理事
パネリスト
三田裕信・環境省 政策企画官
新井 誠・熊谷組 新事業開発本部 副本部長
子田吉之・エプソン販売 グリーンモデル推進部 部長
西川明宏・NECネッツエスアイ 執行役員

三田氏

自治体は、企業や住民、他地域と連携した取り組みを――環境省

まず環境省の三田裕信氏は「地方自治体は住民と近いという立場を生かして、地域の課題解決を地域と密着して進めていくのが不可欠」と基本的な考えを話した。一方で、地域ごとに課題が多岐にわたることもあり、三田氏は「脱炭素の取り組みを他の課題とセットで進める意識が大切」とも指摘した。

環境省としては、「地域脱炭素ロードマップ」に基づき、2025年まで、人材、技術、情報、資金を積極支援する方針を打ち出している。具体的には、脱炭素先行地域(民生部門におけるCO2排出の実質ゼロを達成した地域)を100カ所に増やすとの目標を掲げている。すでに選定されている地域のうち、基幹産業であるアルミ産業を巻き込み、地域内で発生する使用済み太陽光パネルをリサイクルしてアルミ材として販売している富山県高岡市や、市民が主体となって小規模な水力発電所を設置している岐阜県高山市などの事例を紹介した。三田氏は「今後全国に波及させていけるプロジェクトがさまざまに生まれてきている。地域同士がつながることで、お互いに高め合ってほしい」と期待を述べた。

新井氏

バークを利活用し、林業活性化と環境配慮に取り組む――熊谷組

熊谷組では、森林から得られる廃棄物「バーク」(木の皮)を脱炭素バイオマス燃料として再利用する取り組みを進めている。林業の過程で発生するバークは通常、山中に放置されたり、製材所で廃棄されたりするが、環境への悪影響や経済的負担が問題となっている。同社の新井 誠氏は「我々は林業活性化と、CO2削減の2つの社会課題を達成していく。そのために、現在は使い道がないバークに使命を与えたい」と意気込みを語る。

また、地元のバークを利用し、地元の製造工場でペレット化し、地元の石炭火力発電の事業者に売却するという地域循環モデルの構築も目指す。その上で新井氏は「製造工場設置には地元自治体との連携が不可欠。工場をどこに据えるか、人材をどう確保するかが課題」として、まずは愛媛県西条市での実証を予定していることも明かした。

西川氏

CO2排出量の可視化から地域連携へ――NECネッツエスアイ

CO2削減をまず自社内で実践し、その知見を事業に生かしているのがNECネッツエスアイだ。昨年12月に設立70周年を迎えた同社は、メガソーラーの施工や蓄電システム開発といったエネルギー事業の推進に加え、2021年にはTCFD開示の専門部署を新設した。全ての事業を気候変動対応型事業として強化・転換する方針を打ち出している。同社の西川明宏氏は「顧客にソリューションを提供するだけでなく、自社でも実践する」と決意を述べた。

同社は各拠点内で、エネルギーマネジメントやCO2排出量の可視化を推進している。川崎市にある基盤技術センターではEMS(ICT技術を活用したエネルギー最適化システム)を実証するほか、東京・芝浦の本社でも、オフィス内のエリアごとの消費電力を細やかに可視化している。

こうした知見をもとに、高知県宿毛市や広島県呉市などの地方自治体と包括連携協定を結び、構想段階から協働しているほか、40以上の自治体とともに森林吸収クレジットのオフセットに関するカーボンオフセットプラットフォームの構築も進めているという。

子田氏

製品を通じた環境配慮と、ノウハウを生かした他社支援――エプソン販売

エプソン販売の子田吉之氏は、「弊社では、創業者の『諏訪湖は汚さない』という意思が受け継がれている」と創業以来の環境配慮方針を紹介した。また同社は、中小企業の環境対応支援を行う「グリーンモデル推進部」を新規設置。環境経営の推進に苦慮する中小企業に対し、無料でヒアリングやレポート作成を行い、アクションプランも提案する。オフィスや店舗の分電盤に機器を取り付け、リアルタイムで電力量を可視化し、削減ポイントをアドバイスしているという。

プリンターメーカーとしての本業でも取り組みを進めている。子田氏は「オフィスでの電気使用量の10%を複合機が占めている」と指摘し、印刷に熱を使わないインクジェットプリンターに切り替えることで、消費電力を6割削減できると話す。さらに、オフィス内で用紙を再生できる「乾式オフィス製紙機」も組み合わせることで、「環境配慮型オフィスに転換できる」と強調した。

自治体がプラットフォームのコーディネーター役を

菅原氏

各社の取り組みを受け、ファシリテーターの菅原 聡氏は、登壇者に「取り組みを前進させるものは何か」と質問した。

三田氏は、自治体が担うべき役割について「自治体は誰からも最低限の信頼があるという特殊な立場にある。プラットフォームのコーディネーターの役割を担っていただくことが重要だ」と指摘。新井氏も、「企業側は事業のストーリーを描くことができるが、実際に落とし込んでいくには自治体の協力とスピード感が必要」と同意した。

西川氏は「自治体と組むためには、当社自身が自治体の課題をよく聞かないといけないし、自治体だけでなく地域企業も巻き込んで循環を作ることが、持続的に事業を成長させていくために必要では」と述べた。

会場の参加者からは、「企業からすると自治体とコンタクトを取るのが難しい。マッチングの仕組みはあるか」と質問が飛び、三田氏は「環境省として、全国レベル・地域レベルそれぞれに実施している。自治体が熱量を持ってプレゼンし、課題を企業に知ってもらうことで、他のネットワーキングイベントと比べても連携が生まれている」と取り組みを紹介。続けて「自治体内でも各部署が連携し、プレーヤーが動きやすい環境づくりを進める必要がある」と自治体の役割に期待を込めて話した。

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