レンジで2分で超本格寿司 創業60年超マグロ仲卸業者が作る「冷凍握り寿司」 “特殊冷凍技術”を社長が明かす

注目を集める冷凍寿司 ※画像は株式会社B&Tマリンプロダクツカンパニー提供

1963年創業で、東京の台所である築地市場や豊洲市場で約60年、天然マグロの仲卸を営む『鈴富』。2017年7月にオープンし、ハイブランドが所狭しと軒を連ねる『GINZA SIX』にも直営店舗『つきじ鈴富』が入店している。同店はマグロづくしの握り6貫が税込で6380円という紛れもない高級店だ。そんな高級店が新たな挑戦を発表したのは、5月1日のことである。

「冷凍握り寿司商品『解凍寿司 “シャリは人肌”』を公式通販ショップで販売開始したのだ。同商品は6貫1パックで、天然本マグロ(中トロ/赤身)、ウニ、天然真鯛、ホタテ、ぼたん海老という内容(税込・5500円)で、賞味期限は発送日から2週間以内とのこと」(グルメライター)

冷凍寿司だからといって侮るなかれ。ウニ以外はすべて国産食材を使用。冷凍庫から出して500Wの電子レンジで温めること2分。その後、常温で10分ほど置いておけば、本格江戸前寿司を自宅でも楽しめるという画期的な商品なのだ。

「同店が展開する“冷凍握り寿司”は、この春、大手百貨店の伊勢丹で、期間限定でマグロの赤身や中トロ、ウニなどが入った『冷凍握り詰め合わせ』(6貫入り・税込・3780円)が発売され、注目の的となりました。画期的なのは、シャリの上にネタが乗った状態のまま、電子レンジで数分、加熱するだけで食べられるという点です」(前同)

冷凍寿司と聞くと、電子レンジで解凍して食べた際に“ネタが温まりすぎてしまうのでは”とか、逆に“シャリが冷たいままなのでは”と、ネタとシャリのバランスが崩れそうなイメージを抱くものだろう。ほかにも、ネタが生モノであることを考えると、食べる数時間前から自然解凍を始めなければならないのでは、と考える人も多いだろう。

「それらの概念をひっくり返し、食べたいときに手間なく、ハイクオリティの寿司が食べられるというのは画期的。日本の冷凍食品の幅広さやクオリティの高さはよく言われていることですが、ついにここまで来たかと思いましたね」(同)

『鈴富』から発売されるこの冷凍握りは、文字通り職人が握った握りたての寿司を”そのまま”冷凍したものだという。うま味や水分が逃げない特殊冷凍技術により、解凍後も素材本来の味を忠実に再現することに成功したという。

あまりにも手軽で秀逸な解凍の秘密は、独自に開発した2段重ねの容器だという。

容器の下段に水をいれることで、ネタとシャリを同時に“レンチン”してもネタが温まりすぎず、「ネタは新鮮なまま適度に冷たく、シャリはほんのりあたたかい人肌の温度」を実現したという。

■寿司の名店が「冷凍握り」を手がける背景

それにしても銀座にも本格的な握り寿司店を出店する歴史ある仲卸業者が、“冷凍握り”を手がける背景には何があったのか。

今回、『鈴富』を運営する株式会社B&Tマリンプロダクツカンパニーの社長である鈴木勉氏に話を聞いた。鈴木氏によれば、冷凍握り寿司を構想したのは15年ほども前とのこと。鈴木氏がその経緯を振り返る。

「特殊冷凍機を導入して、解凍しても生のマグロや鮮魚の味が落ちない凍結に挑戦したんです。そのとき、素材である生魚を凍結するよりも寿司という商品形態のほうが、直接消費者にアプローチできるため特殊冷凍を利用したビジネスの可能性が広がる、と思ったんです。

日本においしいお寿司屋さんはたくさんあります。それでも弊社としては、家で食べて“世界一おいしい寿司”を目指したかった。買ってきたパック寿司でも、宅配の寿司でもやはり“握りたて”とは異なります。そこで、この冷凍機を利用して、冷凍寿司を実現できれば面白いなと。でも、そのためには優れた解凍方法が必要というところで商品開発は止まってしまっていました」(鈴木氏)

解凍方法においてどうしても譲れなかったのは、「誰でも簡単に、お寿司屋さんのカウンターで提供されたものと遜色のない握り寿司を食べられる」ことだったという。絶妙な職人技で握られた寿司をいつでも堪能できることを追求し、編み出したのが特許を取得した2段重ねの専用容器だという。試行錯誤の末、最終的に商品が完成したのは約1年前のことだった。

”家でも本格的な江戸前寿司を”と喧伝するからには、解凍後の見た目にも心を砕いたという。

「ウニを解凍すると形が崩れてしまいそうに思えるかもしれませんが、きれいな形を保てるように質の良いウニを使用しています。見た目はもちろん、食べ応えや味も冷凍とは思えない満足度です」(前同)

築地や豊洲は現在、訪日外国人客で賑わい、寿司も大人気となっている。インバウンド需要について鈴木氏は「特に意識していない」としつつも、「海外展開のニーズはあると考えています。海外に住んでいる人にも日本で握られたままの寿司を食べてほしい」と海外への商品輸出にも前向きだ。

これまでもさまざまな冷凍食品が食卓を彩ってきたが、今度は家にいながら名店の寿司そのままの味を楽しめる高級冷凍握り。家庭での食事に新たな選択肢と豊かな時間をもたらしてくれそうだ。

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