【コラム・天風録】清川さんと炎のストッパー

 炎のストッパーはしょげ返っていた。38年前の5月、広島東洋カープが逆転負けした夜のこと。抑えに失敗した津田恒美さんは同じ寮に住む清川栄治さんの部屋を訪れる。中継ぎで好投した後輩が、プロ3年目でつかみかけた初勝利を幻にしてしまったからだ▲30分置きに津田さんは「すまん」と謝りに来る。1勝が重い世界だが、清川さんは「気にしてません」と先輩を気遣う。結局眠れないままバイクに2人乗りし、夜通し走った逸話が残る▲穏やかで繊細な性格の2人は馬が合ったのだろう。競争の激しい投手王国で友情を育んだ。津田さんが早世した後、清川さんは形見のベルトバックルを着け登板。墓参も欠かさなかったそうだ▲そんな清川さんの訃報が先日届いた。62歳だった。遺影の柔らかな表情は広島コーチ時代、駆け出し記者にも優しく取材に答えてくれた姿と重なる。わが身を振り返ってみた。職場の仲間を思いやれているか。ミスを責めず、フォローできているか▲清川さんは2年後、津田さんの救援を受け、106試合目の登板で初勝利を挙げた。久々に再会した天国で、継投シーンを振り返っているだろうか。優しい心のリレーも胸にとどめたい。

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