親が身につけるべき「正しい話の聴き方・伝え方」10原則~①

まずはできるだけひたすら聴く姿勢を

【「不登校」「ひきこもり」を考える】#20

前回、不登校・ひきこもりは親の傾聴・共感が解決の鍵となることを説明しました。それでも、「子どもの話なんてこれまで散々聞いてきたのに、まだ足りないというのか!」と訝る親御さんは少なくありません。しかしその本質は、表面的に(耳だけで)「聞く」のではなく、相手の本音(つまり一次感情のレベルまで)を(心で)「聴く」という「傾聴と共感」がなされていなければ意味がありません。

逆に、薄っぺらな表面の話だけを何千回、何万回聞こうが、相手には「一度もまともには聴いてもらえていない」、「聴く気はやはりないのだ」、「親は自分の意見を押し付けることしかできないのだ」と受け止められ、お子さんをさらに絶望へと追い込む危険性すらあるのです。

ここまでの説明を何のことやらさっぱりピンとこない、ただただ面倒としか思えないという方は、お子さんだけでなく配偶者や親族、職場の同僚も含めて、周囲の方はあなたに大きなストレスすら感じており、かつあなた自身がまったくそれに気づけていない可能性すらあります。胸に手を当てて自らを振り返っていただき、少しでも反省する点があるならば、ぜひ正しい「話の聴き方」を今からでも学ぶ必要があります。

①話の「さえぎり」「反論」は厳禁

さて、具体的に心を閉ざしてしまったお子さんには、どうすればいいのでしょうか?

あくまでも子どもの思っていることを吐き出させ、素の一次感情を表出させることが最優先なのなので、子どもの発言が正しかろうが間違っていようが、それが時に聞いている親にとってとてもつらい気持ちが喚起されたとしても、まずはできるだけひたすら聴く姿勢を貫き通してください。 子どもの方から「どう思う?」「どうしたらいい?」と尋ねてくるまでは、助言も意見も控えましょう。子どもの話の内容や解釈が間違っていても、「それってこういうことじゃないの?」などと「質す」こともしてはいけません。

「先回り」したり、理屈で正論を諭すのはたとえその内容は正しかったとしても、コミュニケーションのタイミングとしてNGです。発言だけではなく、お子さんの行動がたとえ未熟で失敗するのが目に見えていたとしても対応の基本は同じです。まずは自分でやってみて失敗しなければ学ぶことすらできません。「こうすれば失敗しないのに」と、頼まれてもいないのに何でも親切心のつもりで口出しされる親御さんも目にしますが、目先の行動に関してはそれでうまくいくかもしれませんが、成功しようが失敗しようが、その経験を通じて人としての成長につながる、それ以上に大事な気づきや学びの機会を奪う、ただの自己満足にしか過ぎないと猛省すべきです。

特に社会的成功を収めたような親御さんの中には、愛情がゆえに自らの背中から学んで立ち直る参考にしてほしいと、自らの武勇伝や成功体験を語り始められる方も少なくありません。しかし聴く心の準備のできていない相手には、これも語り手の優越感に浸ったようなマウンティングにしか聞こえず、「お前の話は聴く気がない」という、さらに子の心を折る有害無益な危険行為だと肝に命じましょう。お子さんから教えてほしいと聞かれない限り、まったく不要な情報です。(つづく)

▽最上悠(もがみ・ゆう) 精神科医、医学博士。うつ、不安、依存症などに多くの臨床経験を持つ。英国NHS家族療法の日本初の公認指導者資格取得者で、PTSDから高血圧にまで実証される「感情日記」提唱者として知られる。著書に「8050親の『傾聴』が子供を救う」(マキノ出版)「日記を書くと血圧が下がる 体と心が健康になる『感情日記』のつけ方」(CCCメディアハウス)などがある。

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