キリン、電気の力で塩味・旨味を増強する「エレキソルト スプーン」発売

by 編集部:湯野康隆

2024年5月20日 発表

エレキソルト スプーン(手前)

キリンホールディングスは、電気の力で減塩食品の塩味やうま味を増強できる「エレキソルト スプーン」を5月20日に発売する。価格は1万9800円。オンラインストアで数量限定で販売される。

同商品は、明治大学 総合数理学部先端メディアサイエンス学科の宮下芳明研究室と共同で開発されたもので、通電することで減塩食品の塩味を約1.5倍に増強させられるようになっている。

スプーンの先端や背面に電極がある

大きさは約250×38×25mm、重さは約60g(電で池含まず)で、リチウム電池(CR2)で動作する。スプーンの柄にあるボタンを押すことで4段階に調節できる。同社では、具だくさんのスープやカレー、チャーハン、丼もの、ラーメンなど、食事全般で利用できるとしている。

ボタンを2秒押すと電源が入り、4段階に調節できる
電動歯ブラシのようにバラせる構造になっている
リチウム電池(CR2)で動作する
500mlのペットボトルとのサイズ比較

オンラインストアでの初回販売数は200台限定となり、申込多数の場合は抽選となる。応募期間は5月20日~6月2日で、発送は6月中旬となる予定。このほか、6月中旬からはハンズの一部店舗でも数量限定で販売される予定となっている。

20日に開催された発表会では、同商品を企画・開発したヘルスサイエンス事業部 新規事業グループの佐藤愛氏と、共同開発を行なった明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科の宮下芳明氏が登壇し、商品化の背景や仕組みが説明された。

ヘルスサイエンス事業部 新規事業グループの佐藤愛氏

佐藤氏は、自身が大学病院で研究を行なっていた際に、食事療法で減塩に取り組む人の多くが薄味による満足感の低下や、その影響で食欲が低下するという課題を抱えていることを知り、これを技術で解決できないかと考えたところから今回の企画がスタートしたと振り返る。

同氏によると、WHO(世界保健機関)では1日あたりの塩分の摂取量を5g未満に抑えることを推奨しているが、2019年時点で日本人は平均で10.1gと基準の2倍を摂取していることが分かっており、これが高血圧などの要因となっている。こうした状況を受け、減塩や無塩といった食品の市場は2015年から2020年にかけて約26%成長している。

ただ、同社の調査によれば、減塩食に取り組んでいる人の約63%が食事に不満を感じ、そのうち8割が味に不満を持っていることが確認されており、2019年から明治大学の宮下研究室と電気味覚技術の共同研究に取り組んできた。

明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科の宮下芳明氏

宮下氏によれば、電気味覚によって塩味を増強する仕組みはいくつかあるが、エレキソルトではイオンによる仕組みを応用。通電することで、舌に触れていなかったナトリウムイオンが舌に誘導され、これによって口内になる塩分量を変えずに塩味を増強できる。

ナトリウムイオン以外も舌に移動させるため、うま味なども増強され、塩を振ったおしるこやスイカのように、味の相互作用によって、全体的においしくなった、味が濃くなったと感じさせる効果もあるという。

開発当初はスプーン型のほかに、箸型やお椀型のデバイスも用意し、民間企業や自治体と協力して開発を進めてきたが、商品化にあたっては耐久性や使いやすさにフォーカス。

初期のスプーン型は、先端部が通常のスプーン同様にすべて金属になっていたが、食べ物を介さずに唇など、舌以外に電気が分散してしまい、効果が得られにくくなるため、あえて食べ物を通して舌に電気を通すようにするため、電極の位置を調整しているとのこと。

開発段階で研究に用いられたプロトタイプ

しっかり通電するとスプーンのLEDが白く点灯するようになっているが、少量ではなく、食べ物をたっぷりとスプーンにのせ、口に運んでしばらく待つようにすると、より効果を感じやすい。

今回の発表会では、減塩と無塩のカレーを試食する機会があったが、減塩の方では塩味や旨味が強くなり、無塩の方も旨味が補強されていることが感じられた。佐藤氏によれば、味の感じ方は個人差があるほか、食べ物によっても変わってくるが、概ね通常の30%ほど減塩にしたものがオススメだという。

塩分と並んで気になる糖分については、「塩味、旨味、酸味のコントロールを得意としているのが電気味覚技術で、糖分は電気味覚技術での再現が少しむずかしい領域。ただ、甘味自体を電気で再現したり、増強させようという研究もいろんな大学の研究室で行なわれており、将来的に技術が整ったら糖分を控える機能も搭載できるかもしれない」(佐藤氏)とのことだ。

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