「一戦交える覚悟を」吼えた町長 島では貝に 日米の安保連携アピールの米国大使訪問に「コメントない」

5月17日、米国のエマニュエル駐日大使が訪問した与那国島。日米同盟のアピールを狙った今回の大使の訪問は島の住民にどう映ったのか、日本最西端・台湾を望む島を現地取材したー

露骨だった“軍事的思惑” 住民には期待と不安

大使の先島訪問には在沖米軍トップも同行。移動には米軍機が使われたが、民間空港を使用した。

与那国島・石垣島の2島で自衛隊施設や海上保安部の船舶などを視察したのは、日米の軍事的連携をアピールし、有事を前提に先島諸島(石垣島より西の島々)で米軍の活動範囲を広げたいという思惑からだ。大使はそれを堂々と語った。

▽エマニュエル駐日米国大使
「日米が戦略的に整合性を取ることができれば抑止力を強化することができる。武力行使が社会秩序のルールを変えることがあってはならず、抑止力がその鍵となる」

エマニュエル大使も驚いた「話したいことない」町長

海洋進出を強める中国を念頭に、大使が日米の同盟強化や抑止力の意義を強調した一方、与那国町の糸数町長はー

▽エマニュエル駐日米国大使
「町長から話したいことがあればどうぞ」
▽糸数与那国町長
「特にないですね」

この対応には大使も冗談で流すしかなかった。

▽エマニュエル駐日米国大使
「話すことがないといった町長や市長は初めて」

その後、取材対応を続ける大使の発言を最後まで聞くことすらなく、席を外した糸数町長。

大使を取り囲む報道各社の外から様子を眺め、視察同行者に向かって呟いた。

▽糸数与那国町長
「メディア対策も大変だね」

改憲派集会では強気「一戦を交える覚悟が問われている」

米国大使の訪問という島の一大事に、まるで他人事のように振る舞った糸数町長だが、別の場所ではまったく違う顔を見せていた。憲法記念日に東京で開かれた改憲派の集会。

▽糸数与那国町長
「日本列島の最西端、国防最前線の与那国島から参りました糸数ですどうぞよろしくお願いします」(5月3日・公開憲法フォーラム)

糸数町長は与那国島を“国防”の最前線だと強調し、憲法への自衛隊明記など憲法改正を訴えた。しかし話はそれだけにおさまらなかった。

▽糸数与那国町長
「岸田総理はじめ、国民がいつでも、日本国の平和を脅かす国家に対しては一戦を交える覚悟が今、問われているのではないでしょうか」

▽司会
「ありがとうございます。国防最前線、まさに国境の島からの貴重なご提言だと思います」

町長のこうした姿勢に呼応するかのように、与那国島では自衛隊の駐屯地にミサイル部隊などの部隊増強が計画され、新たな土地の取得や、有事対応の強化を前提とした空港滑走路の延長、港湾の整備に向けた検討などが進められている。

▽町民らが開いた集会・5月16日
住民「情報がないんですよ。明日(大使訪問)のことも含めて、何の説明もない」

大使の訪問に合わせて地元の有志が開いた会見。会場となった住宅には多くの住民が集まり、なし崩し的な軍事施設の増強と、町民への説明を避ける町長に対する不満が噴出した。

「あなた1人の与那国島じゃないでしょう」

▽狩野史江さん
「こんな小さな島でどんどん戦争の準備をすることが許せなくて」
「(今後もし)米軍が簡単に島に駐屯するとか、そういうことになれば黙って見ているわけにはいかない」

▽崎原正吉さん
「(町長が)町民に説明しないって、あなた1人の与那国島ではないでしょうと。人口1700人あまりの人間がいるのに」

天候が良ければ台湾をのぞむことができる西崎灯台で大使を迎えた糸数町長。笑顔で肩を組む場面もあったが、その後、報道各社の取材に応じることは最後までなかった。

町の担当者は「町長は疲れがたまっていて午後から休んでいる」と説明した。しかし翌朝、取材に応じない理由を質す記者に力強く答えた。

取材に応じない理由も「特にない」

ー取材を受けない理由は?
▽糸数与那国町長「特にない。ろくなこと書かれないから。喋ってもダメ、喋らなくてもダメでしょ?喋ることもないのに」

ー大使とどういう話をした?
糸数与那国町長「・・・・・」

挑戦的とも受け取れる言葉で「国防の島」としての位置づけを歓迎、自ら強調する一方、そこに暮らす人々の不安には向き合わない町長。

“安全保障”や“抑止力”といった言葉の下で住民は翻弄されている。

島内では、防衛力強化に賛成する人の中にも町長の説明不足を指摘する声があった。町長には行政の長として説明責任があることは明らかだ。(取材:平良優果)

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