氷川丸がダイナミックに 白と黒の切り絵で表現 船内で柳さんの個展

 切り絵作家の柳翔太郎さん(24)=厚木市=が手掛けた大作「日本郵船氷川丸」が、横浜市中区の山下公園前に係留・保存されている同船内で展示されている。船内では30日まで、通算10回目となる個展「切り絵の世界」展が開催中。船長の2年越しの働き掛けで実現した。

 カッターナイフを手にすると、次第に前のめりになる。下絵に顔を近づけて、しなやかに、そして真っすぐに切り取る線に迷いはない。白と黒のダイナミックな世界が広がってゆく。

 氷川丸のエントランスホールで9日から日曜ごとに実演していた作品は23日に完成した。これまでで最大となる縦109センチ、横157・8センチ。柳さんを支え励ましてきた第28代船長の金谷範夫さん(66)は「左舷を描いた作品はなかなかない。細かな線でダイナミックに表現されていて、こちらに迫ってくるようだ」と、しばらく見入った。

 軽度の知的障害がある柳さんは中学校の授業で切り絵と出合った。県立茅ケ崎養護学校高等部に在学中、美術教諭の石田貴子さん(40)に勧められて本格的に創作をスタート。3年生の時に発表した65枚の「電車シリーズ」は、全国の特別支援学校の児童生徒らによる作品展「あーと甲子園」で審査員賞と来場投票1位をダブル受賞した。

 電車や建築物が好きで、建設中の東京スカイツリーや、東京タワー、東京駅丸の内駅舎などを題材に次々と作品を生み出してきた。2011年3月に卒業し、厚木市内のスーパーで働きながら創作を続けている。

 金谷船長は14年9月、柳さんが10代後半に制作した氷川丸と横浜マリンタワーを個展で目にし、伸びやかな線と白と黒のバランスの美しさに感動。船内で個展を開くことを提案した。

 柳さんは何度も船内を訪れ、自ら撮影した写真をもとに下絵を描いた。鋼材の質感を伝える「氷川丸 シャフトトンネルの後部」、細部まで表現した「氷川丸と白灯台」「2番ハッチ付近」、笑顔を見せる金谷船長の全身像などを生み出した。

 展示は13点。氷川丸での個展で多くのファンを得て、励ましを受け、新たな自信につながった。「今回間に合わなかった作品は、次の個展に向けて完成させたい」と先を見据える。

 最終日の30日は柳さんが来場し、ポストカードや氷川丸限定の2017年カレンダーを販売する。午前10時〜午後5時。入館料が必要。問い合わせは、電子メールshoyuri109@gmail.com

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