サイバーエージェントが「ヘイト」ブログを削除

【時代の正体取材班=石橋 学】インターネット上の差別書き込みで人権を侵害され続けているとして、川崎市川崎区の在日コリアン3世崔(チェ)江以子(カンイヂャ)さん(43)が横浜地方法務局に救済を申し立てた問題で、法務局はブログサイト「アメーバブログ(アメブロ)」の運営会社「サイバーエージェント」に削除要請を行い、同社が応じていたことが28日分かった。業界最大手の対応はプロバイダー各社にも影響を与えそうだ。また、法務局は同日、ユーチューブを運営するグーグルに対しても4件の動画を削除するよう要請した。  削除されたのは、アメブロに載った二つの文章。6月中旬に書き込まれ、それぞれ「【川崎デモ】崔江以子、お前何様のつもりだ!!」「クソ忌々(いまいま)しい在日チョンの崔江以子め、いい気になりおって。」と題されていた。

 直前の同月5日、ヘイトスピーチ(差別扇動表現)を繰り返す男性により川崎市中原区で行われたデモが市民の抗議で中止に追い込まれていた。ブログはいずれも、抗議活動に参加していた崔さんをインタビューした新聞記事に触れ、一市民に過ぎない崔さんへのいわれのない非難と、朝鮮人を差別する言葉を用いた誹謗(ひぼう)中傷を浴びせている。

 崔さんが9月16日に行った申し立てを受け、法務局は今月27日に削除要請し、二つの書き込みはその日のうちに削除された。

 運営会社のサイバーエージェントは「要請を受けて確認したところ、個人が特定され、かつ誹謗中傷と認識できる内容だったため、削除した」と話す。同社の利用規約では、誹謗中傷や侮辱、名誉を傷つける行為・表現▽人種、民族、性別などによる差別につながる表現・内容の送信などを禁じており、違反した場合は削除やサービスの利用停止ができるとしている。

 崔さんは、ツイッターとユーチューブに投稿された自身と長男の中根寧生(ネオ)さん(14)に対する差別書き込みも削除要請しており、運営会社である米ツイッター社とグーグルの対応が注目される。

 寧生さんへの攻撃はすでに法務局が「人格権を侵害する違法行為」と認定し、10月6日に4件分の削除要請を米ツイッター社に出している。同社は3週間以上要請に応じておらず、人権問題に詳しい三木恵美子弁護士は「一つのツイートが人の生き死にを左右する事態を招いているという認識があるのか。新興メディアとして自由さと多くの人に利用されることを哲学としてきたのだろうが、社会の公器として企業倫理を確立する時期にきている」と話している。【解説】行政の要請に意義 膨大な差別書き込みにも諦めることなく人権被害申し立てに踏み切った崔江以子さんの行動は、行政の働き掛けの効果が示されたという点で意義深い。会員数4千万人、業界最大手のサイバーエージェントは「今回は禁止事項にはっきり該当するケースだったが、自分たちだけでは判断がつかない場合も少なくない。人権侵犯に当たると国が示してくれれば即座に対応できる」と要請自体を前向きに受け止める。

 適正で迅速な対応が促されるだけではない。行政による取り組みそれ自体が啓発と抑止につながる。何より被害当事者の負担が軽減される。拡散した書き込みを個人がプロバイダーに削除要請するのは物理的に困難で、確認作業は多大な苦痛を伴う。自身が被差別者なのだと、そのたびに再確認することを強いられるからだ。単なるプライバシー侵害や名誉毀損(きそん)ではない差別書き込みであるからこそ、行政が被害者に代わって要請することに意味がある。

 今回対応したのが、ヘイトスピーチ解消法の施行を受けて法務省人権擁護局に新設されたヘイトスピーチ被害相談対応チームであったように、新たな取り組みの模索が始まっている。

 すでに独自に取り組む自治体もある。広島県福山市はインターネット掲示板を毎日1時間チェックし、差別書き込みを発見次第、管理者に削除を求めている。兵庫県尼崎市もモニタリングを行い、地方法務局へ削除要請を依頼している。

 削除要請は公権力で表現の自由を制約するものではなく、あくまでプロバイダー各社が定める利用規約にのっとり適切に運営するよう求めるものだ。国にはためらう理由はないばかりか、業界を促し、野放しの人権侵害を防ぐという同じ地平に立った有効なルールづくりを急ぐべきだ。

© 株式会社神奈川新聞社