【特集】DeNAサイト停止の波紋 記事乱造、ずさん運営の結末

記者会見したDeNAの守安功社長(左)と南場智子会長(右)
DeNAの説明資料
DeNA本社が入る東京・渋谷の複合ビル

 IT大手ディー・エヌ・エー(DeNA)の健康医療サイト「ウェルク」で信頼性に欠けた記事が乱造され、無断転用の実態が明らかになった。ウェルクを含め、ファッションなどをテーマにした10のまとめサイト全てが非公開になり、守安功社長と南場智子会長が7日に都内で謝罪会見した。閲覧数と広告収益を上げるため、グーグル検索で上位に表示されるように記事の量産を続けていた。DeNAは15日、第三者委員会を設置。他社もまとめサイトの一部を停止するなど、ずさんなメディア運営の波紋は広がりを見せている。

 ▽あっけらかん

 「通常のメディアであれば編集部が存在する。当社には記事の品質について責任を負う機能がありませんでした」。7日の会見で守安社長、南場会長と同席した執行役員の小林賢治経営企画本部長は自社サイトについてそう説明した。編集機能がない。例えれば自動車メーカーがうちの車にはブレーキが付いていませんと言うのと同じ。潔いというより、あっけらかんとした釈明に筆者は正直驚いた。

 ゲーム事業を中心として成長してきたDeNAが近年関心を持ち続けたのが、まとめサイト事業だった。キュレーションサイトとも呼ばれるこの分野は特定のテーマごとに情報を収集して整理、膨大なネットの内容を効率よく読めるサービス。利用者の閲覧数に応じて広告収益がアップする仕組みだ。

 DeNAは2年前にインテリア、女性向けファッションのサイト会社を買収。昨年10月、この会社のメンバーを中心にウェルクなど10サイトを開設した。看板のウェルクは月間2000万人以上の利用者を集める「人気サイト」に育った。病気、健康問題に関する言葉を検索すると、最上位に表示されたため、サイト名まで覚えていなくても多くの人が目を通したはずだ。

ネットでの検証

 「不正確、不適切な記事が容易に掲載される態勢だった」(小林経営企画本部長)、「成長を追い求めすぎ、正しい情報の提供という配慮を欠いた。メディア事業に関する認識が甘かった」(守安社長)。DeNA側が会見で認めた不適切な対応はどうだったのか。

 今年10月から11月にかけて、ウェルクの記事の是非がネットメディアを中心に指摘され始めた。最初注目されたのは、「死にたい」という言葉で検索すると最上位に表示された記事だった。「人生に疲れてしまった人が確認すべき自分の深層心理とは?」というタイトルで、自殺リスクを背負い、心のケアが必要な人が読むのにふさわしくない内容だった。「肩こりは幽霊が原因のことも」といったオカルト的な内容の記事も問題視された。さらに医師のホームページから無断で引用して、応急処置を勝手に書き換えた記事も見つかった。STAP細胞を作ったと発表した小保方晴子氏の論文がネットで改ざんの可能性を指摘されたのと同様、ウェルクも無数のチェックと検証を受けて炎上した。

 DeNAは記事の大半を外部のライターに発注していた。優先されたのは質より量。検索に引っかかりやすくするため、特定のキーワードを多くちりばめ、記述の分量を増やすよう指示。毎日100本、1万字近い長文の記事も量産された。DeNAはウェルクを検索サイトの上位に押し上げることに成功したが、にわかライターの学生アルバイトたちによる継ぎはぎだらけの記事が多かったとされる。

 ▽新たなきっかけ

 DeNAの創業者である南場会長は会見2日前の5日に夫を亡くした。看病に専念するため社長を退いたことは業界では知られている。

 記者からは家族の看病をしていて、医療情報についてネット検索をしていたと思うが、ウェルクの記事を見たことはないのかと厳しい質問があった。南場会長は「家族の闘病が始まった時からネットを徹底的に調べた。(別のサイトで)がんに効くキノコの話が出てきて、ネット情報はそれほど役に立たないと思った」と答えた。「今回の件は報道で知った。いつこういう重い医療情報を扱うようになったのかとがくぜんとした。経営者として不覚だった」と反省の言葉も語った。

 ネットメディアの在り方について一石を投じた今回の問題。新聞もきつい論調が目立った。上智大の音好宏教授(メディア論)は「既存メディアはこれまで記者、編集者といった人を育てるシステムを培ってきた。DeNAはそれを持っていなかったため、効率を優先、財務面で判断して、問題点に気付かなかった」と指摘する。一方で「既存のメディアは『そんなイロハも分からないのか』との見方をするかもしれないが、それでは新旧メディアのつまらない対立で終わる。この経験を通じて、急速にネットが成長する時代に、新たな質の高いメディアを双方が見いだしていくきっかけになればいい」と話している。(共同通信=柴田友明)

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