犬猫「殺処分ゼロ」、神奈川県の方針に疑問や批判 神奈川、ボランティアに負担集中

 県が掲げている犬猫の「殺処分ゼロ」の方針に、疑問や批判の声が相次いでいる。県動物保護センター(平塚市)に収容された犬猫を引き取り、譲渡先を探すボランティアに負担が集中しているからだ。黒岩祐治知事は施策を継続する意向だが、動物を「生かす」ために解決すべき課題が山積している。

 「センターから民間にたくさんの動物が移動している。理想だけでなく、足元を見てからゼロ展開してほしい」。12月15日の県議会厚生常任委員会。口頭陳情に立ったNPO法人神奈川動物ボランティア連絡会の代表が訴えた。

 同センターは、犬は2013年度から3年連続、猫は14年度から2年連続で殺処分ゼロを達成。黒岩知事は「達成は快挙」と喜んだが、登録ボランティア(愛護団体や個人)頼みなのが実情だ。15年度は、センターが収容した犬396匹と猫623匹のうち、ボランティアが犬175匹、猫は約8割に当たる495匹を引き取った。

 「もう限界」。猫保護団体「たんぽぽの里」(相模原市中央区)の代表(51)が漏らす。15年度に県センターから引き取った163匹の大半は、引き取り手の少ない病気や高齢の猫だった。1匹の医療費に約40万円かかった例もあり、寄付に頼る団体の運営を圧迫している。同年度はこのほか、センターを介さず約300匹を引き取っており、40だったシェルターの収容定数を一昨年と昨年20ずつ増やしたが、常時定数をオーバーしている。

 「どんどん譲渡を進めないといけない。でも、安易な譲渡はできない」とこの代表。気軽に飼い始めた飼い主が簡単に手放す−。その連鎖が、行き場のない動物を生み出しているからだ。無計画な飼育で飼い主の手に負えないほど繁殖する「多頭飼育崩壊」も増えていると感じている。

 米国と日本で臨床経験を持ち、同市内で保護動物専門の病院開設の準備を進める獣医師(55)は「センターが『生かす』施設に転換したなら、行政の役割を再構築しなければならない」と指摘する。喫緊の課題として(1)センターの土日稼働や、獣医師の24時間対応などソフト面の充実(2)ボランティアの負担や飼育環境の調査(3)飼い主とトラブルになるリスクの高い多頭飼育崩壊への介入−などを挙げる。

 さらに、簡単に答えの出せない命を巡る問題もある。例えば、瀕死(ひんし)の動物に多額の医療費を費やすべきか、安楽死させるべきか−。この獣医師は「殺処分ゼロを語るならば、課題の一つ一つに真剣に目を向け、解決策を話し合わなければいけない」と強調している。

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