東京五輪に向けても着々と強化、将来の野球強国へオランダが秘める可能性

2017年のWBCで2大会連続のベスト4入りしたオランダ代表【写真:Getty Images】

地元野球少年にすら知られていないオランダの国内リーグ

 オランダの野球少年に「フーフトクラッセって知ってる?」と質問すると、ほとんどの答えは「NO!」。国内でも知る人ぞ知る野球リーグだ。しかし、WBCで2大会連続で4強入りしたオランダ代表メンバーには、このリーグ出身の選手が複数か選出されている。元楽天のルーク・ファンミル投手も所属するフーフトクラッセについて、現地にて調査を行った。

 欧州で最強を誇るオランダ。しかし野球はマイナースポーツに位置付けられている。オランダの総人口が約1500万人。うちサッカーの競技人口は約100万人とされる一方で、野球は1万人にも満たないと言われている。オランダシリーズ(日本での日本シリーズにあたる)の開幕戦でも、観客はまばら。観客を収容できる球場自体が少なく、欧州随一のスタジアムを持つキュラソーネプチューンズでさえ、経営は厳しい。フーフトクラッセでは、チケット代金を取ることはほとんどないため、収入の大部分は球場内の飲食店収入及びアカデミー料金、スポンサー収入に頼っているのが現状だ。

 フーフトクラッセにはオランダ王立野球・ソフトボール協会(KNBSB)が定める独自のルールが幾つか存在する。KNBSBとしても、国際大会優勝を目指し個々人のレベルアップを目的とするため、フーフトクラッセに所属しながら、AAA、マイナーリーグ、NPBに挑戦することを認めている。たとえシーズン途中で解雇されたとしても、フーフトクラッセの所属チームで即座にプレー再開ができる柔軟なシステムがある。

 この日のキュラソーネプチューンズの1番で出場していたスティン・ファンデルメール選手はWBC代表にも名を連ね、今年はメジャーリーグへ挑戦(FAはなく、挑戦したかったら挑戦できる)した。しかし、マイナー時点で契約を打ち切られてしまい、再びネプチューンズでプレーをしている。

 このシステムのおかげで、ファンミル投手(2016、2017年オーストラリアベースボールリーグにてプレー)のようにシーズン終了後、他国のリーグにてプレーをすることも可能だ。

毎年のように変わるルール、東京五輪を見据え優秀な選手が集結

 また、日本と違いクラブチーム特有の事象も存在する。オランダの野球は毎年ルールを変更する。アマチュアU18は東京五輪を見据え、各クラブチームのアカデミーに属する優秀な選手(カリブ海地域も含む)がアムステルダムの施設に宿泊しながら練習をしている。土日は各クラブのアカデミーに戻り、リーグ戦をこなす。そこで、好成績を残せば、何歳でも、属するクラブのトップチームでデビューすることが可能。オランダシリーズ初戦でも、ネプチューンズアカデミー所属のピテルネッラ選手(17歳)が代打でデビューを果たした。ここでは三振に倒れてしまったが、素晴らしい経験になることは間違いない。

 この日の試合は両チームのベテラン投手、ディエゴ・マークウェル(ネプチューンズ:37歳)とロブ・コーデマンズ(L&Dアムステルダム:43歳)の2人による投手戦が繰り広げられた。そしてファンミル投手の登板は2点を追う展開で迎えた7回1死の場面。32歳のファンミルは試合の終盤を任されることが多かった。

 国民の平均身長が185センチと言われるオランダ人でも一際目立つ216センチ、マウンドに上がれば一段と高くなる。投球フォームは楽天時代と変わらず、長身を生かした真上から投げおろすオーバースロー投法。球種はストレート、スライダー、スプリット、チェンジアップの4種類である。ストレートの球速は平均148キロと健在であり、ファンミルの豪速球を捉えられる相手打者はおらず、2回2/3を投げ、被安打0、奪三振3の好成績であった。

 試合後にオランダU18マネジャーであるエリック氏にファンミルについての感想を求めると、「当然優れた投手である。しかし、球が速いだけでは簡単に合わせることができるし、綺麗な真っ直ぐは打順が一回りもすれば捉えることができる。今後は緩い変化球を覚えるなど、投球スタイルを変えないと長く活躍することは厳しいかもしれない」と意外にも辛口コメント。

 フーフトクラッセで一番のスピードボールを誇るファンミル投手だが、今後も活躍を続けるには新たな武器が必要となる。かつては楽天でプレーし、現在は母国に戦いの場を移したファンミルは試行錯誤を続けながら奮闘している。年々レベルが上がっているオランダ国内リーグ。現状、世界大会ではカリブ海に浮かぶオランダ領キュラソー島出身のメジャーリーガーに頼る面が大きいが、オランダ本国の選手もレベルアップを果たせば、米国や日本に肩を並べる野球強豪国になるかもしれない。

(Full-Count編集部)

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