なぜ松坂大輔はファンサービスを厭わないのか 根底にある思いとは

ファンサービスを行う中日・松坂大輔【写真:荒川祐史】

沖縄キャンプでは度々サイン会を実施、ファンとの触れ合いを大切にする松坂

「模範というかね。ファンを大事にしないといけないという使命感を持っている。ファンとプレーの関係には密接な関係があると自覚している印象を受けたな」

 中日ドラゴンズがキャンプを行っている沖縄・北谷町。2月15日に北谷公園野球場に陣中見舞いに訪れ、こう語ったのは中日ドラゴンズの総帥、白井文吾オーナーだった。

 松坂は37歳になった。かつての姿ではない。右肘、右肩を手術しており、かつての150キロを超す豪速球を求めるのは無理がある。シュートやカットボールを使い、手元でボールを動かすスタイルにモデルチェンジして復活しようとしている。

 ただ、それでも依然、トップクラスといえる人気がある。沖縄キャンプには、その姿見たさに多くの報道陣、ファンが集まり、連日賑わいを見せている。グッズの売上も好調。球団にとって早くも好影響を及ばしており、この日球場で松坂と面会したオーナーも「固い握手をしました」と激励していた。

 その白井オーナーが言及したのが、松坂が持つ「ファンを大事にする使命感」である。

一貫してサービス精神旺盛な松坂

 この沖縄キャンプ、松坂のファンサービスの姿勢に驚く声をよく耳にする。自ら進んでサイン会を実施し、長蛇の列が出来ているとなれば、時間を延長して出来るだけ多くの人にサインを書こうとする。陸上競技場でのランニングが終わると、ファンの呼びかけに応えて近づいていき、サインすることも珍しくはない。

 甲子園春夏連覇、新人での最多勝獲得、WBC2大会連続MVP、レッドソックスでのワールドシリーズ制覇などなど、数えきれないほどの栄光を経験してきた松坂。こちら側が気後れしてしまいそうな実績があるにも関わらず、ファンに対しては一貫してサービス精神旺盛である。

 これはこの沖縄キャンプだけに限らない。3年間在籍したソフトバンク時代も同様の姿勢を見せ、投げる方では残念な結果に終わってしまったのだが、多くのファンを喜ばせてきたのも事実だ。

 一部にはファンサービスに消極的な選手もいる中、なぜ松坂は厭わないのか。そんな単純な疑問が浮かぶ。本人に聞くと、答えはごくごくシンプルなものだった。

ファンとの触れ合いは「至って普通のこと」、根底にある思い

「特別、意識はしていないですよ。やっていることは至って普通のことだと思っているので。時間があって(サインを)書ける時は書きたいと思っているので」

「やるべきもの? そうですね。自分の練習のペースとかもあるので、それは守らせてもらいますけど、それ以外であれば出来るだけ書いてあげたいと思っています」

 普通のこと――。松坂にとってサインや写真撮影といったファンサービスは普通のことらしい。アッと驚くような答えはなかったが、あまりにシンプルな答えに右腕の思いが透けて見える気がした。

 もちろん、スケジュールの問題はある。練習の流れを断ち切ってまではやるべきことではないのは、当然ファンの方々にもお分かりいただけるだろう。その中で極力、ファンサービスに時間を割くことを、松坂は当然やるべきことだと認識している。その根底には「ファンの方々は、チームや選手を支えてくれている人たちだと思っているので」という思いがある。

 その思いは、実際にファンサービスを受けた人には確実に伝わっているのだろう。アンチは多い。批判的な声も多い。一方で、松坂の復活を信じ、期待するファンも多い。それは、松坂のこういった姿勢からも醸成されているのではないだろうか。

(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)

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