育成出身初の開幕投手 ホークス工藤監督の指名に見せた“千賀らしさ”

開幕投手に任命されたソフトバンク・千賀滉大【写真:藤浦一都】

開幕投手に任命されたホークス千賀「1年しっかり軸として戦えるように」

 ピッチャーにとって、1つの栄誉となるのが「開幕投手」。シーズンのスタートを切る独特の緊張感が漂う開幕戦での先発投手は、だいたいが各チームのエースピッチャーが務めるものである。143分の1だが、ただの143分の1ではない、重要な意味を持つ一戦である。

 2年連続の日本一を狙うソフトバンクで、2018年の開幕投手に指名されたのは、千賀滉大投手だった。昨季は侍ジャパンメンバーとしてWBCに出場し、日本人で唯一の大会ベストナインを受賞。シーズンに入ってからは左背部痛で離脱があったものの、13勝をマークして最高勝率のタイトルを獲得した。2016年に続き2年連続2桁勝利も達成した。

 キャンプ中に、宿舎の工藤監督の自室に呼ばれて直接、本拠地ヤフオクドームで行われる3月30日のオリックス戦での“大役”に任命された。キャンプ休日だった19日に各メディアによって一斉に報じられた。もともと開幕投手に関心を示していなかった千賀。「監督に呼ばれた時に、そうかなと思いましたけど。僕じゃなくてもいいのにな、とも思いました」というのが“千賀らしい”ではないか。

 工藤公康監督は「もう1ランク上を目指して欲しい選手。このキャンプでも1番いい調整をしている」と、千賀を指名した意図を説明している。もう1ランク上――。右腕に対して、工藤監督の大きな期待が込められた指名と言えるだろう。

和田も「然るべき人が開幕投手になった」、「誰も異論はない」

 2018年の開幕投手には千賀と、昨季16勝で最多勝に輝いた東浜巨投手、そして実績あるベテランの和田毅投手が候補と目されていた。だが、昨季、左肘の故障に苦しみ4勝に終わった和田はキャンプ中盤に左肩の違和感を訴えて別メニューとなった。その状況からも、千賀か東浜かの2択だったといえる。

 その中で指揮官はなぜ千賀を選んだのか。まず2年連続2桁勝利の千賀に対し、昨季最多勝の東浜は一昨年は9勝。シーズンを続けての実績といえば、千賀に分がある。指揮官はもちろん東浜の力は高く評価している。だが、それ以上に千賀のポテンシャルを買い、さらに現時点ではまだ千賀のポテンシャルを引き出しきれていないと感じているのではないだろうか。

 もちろん、現時点での力からも、開幕投手にふさわしい人選だ。ベテランの和田も「然るべき人が開幕投手になったと思います。僕は千賀か巨かと思っていた。チームにとって誰しもが納得する選択。誰も異論はないと思う」と語る。ただ、それ以上に工藤監督は千賀に大役を任せることによる責任感、使命感などで、打者を圧倒する、誰も手をつけられなくなるような絶対的な投手へ“化ける”ことのキッカケとなることを期待している。

 千賀自身は大役を任されても、その様子に変わりない。いつも通り飄々としたものだ。「気持ちは全然変わりないです。やることは変わらないですから。僕のやることに変化はない。任せられるということは、1年間軸としてしっかり回ることだと捉えています。1年しっかり軸として戦えるようにトレーニングをしていければ、と思います。開幕投手だからどうの、というのはありません」。育成出身選手で史上初めてとなる開幕投手。この経験が、千賀をとてつもない投手へと飛躍させるキッカケとなるかもしれない。

(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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