ねるちゃん効果絶大 長崎県内市町広報紙の転売も

 長崎港を見下ろす稲佐山をバックに、ワンピース姿の美少女が柔らかくほほ笑む。長崎市の広報紙の4月号は、音楽グループ「欅坂46」の長濱ねるさんが華やかに表紙を飾っている。人気アイドルの起用は読者層拡大の意図をうかがわせる。自治体ごとに独自色がにじむ広報紙。県内21市町の4月号を見比べ、それぞれが打つ今年の「押し」を探った。

それぞれの特色が出た県内21市町の広報紙

□影響力

 「ねるちゃん効果は絶大ですよ」。長崎市広報広聴課の担当者は、その影響力にうなる。県外からの問い合わせは100件近くに上り、インターネットでの転売も全国的な話題に。戦略的なのは特集ページの独占インタビュー記事。「水辺の森公園」「皇帝パレード」-。出身地長崎市の魅力を語る言葉の全てが宣伝と化す。「普段は読まない若い方も手に取ってもらえたのでは。長崎に新たな『聖地』が生まれる予感」
 サッカーJ1のV・ファーレン長崎を特集したのはやはり諫早市。表紙いっぱいに並ぶ選手のプレー写真は秘書広報課の職員が自ら撮影したという。その熱が伝わってか、チームはリーグ戦で前節まで4連勝。期待も込めて「ホームスタジアムを置く諫早市を盛り上げるため全力取材していきます」。

□印象派

 真剣な面持ちの男性が優しくなでているのは、ブナシメジ-。
 西海市の一面は、キノコ類などを生産する「ミスズライフ西海工場」の職場風景。主に催事や自然を表紙にしていた同市は、昨年の8月号から市を仕事で支えている「人」に焦点を当て始めた。中面では「今月の表紙(かお)」と題し人物像や仕事内容を特集。政策企画課は「市民を主役に独自色を出す」と意気込む。
 島原市は昨年から「しまばらん」の4こま漫画を掲載。同市出身で人気漫画「妖怪ウォッチ」の作者、小西紀行さんが生んだこのご当地キャラは「ゆるキャラグランプリ2017」ご当地部門で14位を獲得。ちなみに、4月号の第9話「花見」の4こま目と、島原城と桜を写した表紙の景色が全く同じ描写となっているが「偶然の一致で驚いている」(秘書人事課)。
 「広報おおむら」では、大村市出身でフリーダイビングの世界選手権2連覇中の木下紗佑里選手が子どもたちと一緒に「OKポーズ」。このユニークな一面には裏話がある。撮影中に子どもの表情が硬いと感じた木下選手が、競技中に意識確認をするときの「アイムオーケー」のサインを伝授。機転の利いた対応により、笑顔が咲く表紙を飾ることができたのだという。

□親密感

 4月号の特徴として、門出を祝う卒業式や桜やツツジの花々の写真を起用し、「春」を演出した表紙が多かった。また、担当者への取材では「見やすく」「手に取ってもらえるように」との言葉が度々聞かれ、写真や図を多用してビジュアル化する狙いが見られた。
 さまざまに特徴がある中で、記者のお気に入りを挙げるとすれば北松佐々町だろう。一大イベント「ジョギングフェスティバルinさざ」の風景は4月号の表紙の「恒例になっている」(企画財政課)。ランナーで埋まる道路の写真は爽快で、何だか見ていて気持ちがいい。「なるべく多くの人が写るように歩道橋の上から角度を付けて撮影しました」。工夫が光る広報紙だが、製作に携わっているのは2人だけだという。
 「広報さざ」の担当者は言う。「少ない人員と予算の中でも、足を使えば住民の声を届けることはできる。地域と人を結ぶツールになれば」

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