元阪神・岡田彰布氏が明かす代表監督オファー秘話「速攻で『嫌です』言うたわ」

阪神・オリックスで活躍した岡田彰布氏【写真:荒川祐史】

岡田氏が考える代表とは…「目指すのは勝つための野球だけ」

 野球界には、世間には明かされないまま、消えていってしまう興味深いエピソードは数多い。現役時代には阪神の主軸として甲子園を沸かせた岡田彰布氏もまた、エピソードの宝庫だ。オリックスを経て1995年を最後に引退。通算247本塁打を放った好打者は、阪神とオリックスで監督も歴任した。2軍で若手育成の経験も持つ岡田氏だが、オリックスで指揮を執る2011年に、実はこんなオファーを受けたことがあるという。

「あれは2011年かな。オリックスと巨人が交流戦で東京ドームで試合をした時やから(2011年5月22、23日)。試合の後で熊崎(勝彦)さんと飯を食いに行って、言われたわ。『WBCの監督やれ』って。『嫌です』って言うたわ(笑)。速攻で『嫌です』言うたわ」

 2011年といえば、WBC3連覇のかかった2013年大会に向けて侍ジャパンの監督選考が行われていた時期だ。第1回大会はダイエー監督だった王貞治氏、第2回大会は巨人監督だった原辰徳氏と現役監督が2度続いたが、代表との兼務が難しいということで選定が困難を極め、山本浩二氏に決まったのは2012年10月のことだった。

 岡田氏が監督就任を断った理由は、至ってシンプル。「自分の監督像と合わないから」だ。

「日本代表がどういう野球をするかはいらんと思うんだよね、俺は」

「俺は選手を選ぶのが嫌なんよ。与えられた戦力で、どういう風にしたら勝てるかやる方が、俺が考える日本代表の監督像。例えば、足を使った野球をしたいから各チームの足の速い選手を選ぶっていうのは、本当の日本代表じゃないと思うんやな。それは監督のやりたい野球であって、勝つための戦力やない。それで勝てるんだったらいいけど。

 日本代表がどういう野球をするかはいらんと思うんだよね、俺は。目指すのは勝つための野球だけやんか。誰もが納得するような今一番いい旬の選手を12球団から集めて、世界で勝つにはこういう野球をしようっていう戦略は、後からついてくるものやわな。本当に力がある選手を集めればいいんよ。もしかしたら、集めた選手の中にはホームランを30本打つ選手が7人も8人もいるかもしれない。そしたら、その時はそういう野球をしなければいけない。

 監督のやりたい野球のために選手を集めるんやなしに、その時旬の選手を集めて、それを監督がどう生かすか。日本代表の監督はそういうもんやと思うから、そう説明して、俺は断った」

 日本代表は、誰もが頷くその時に活躍している選手、旬の選手が集まるべきだというのが、岡田氏の意見だ。極論を言えば、結果を出している選手であれば、パワーヒッターばかりになってもいい。そう言い切るのも、代表に選ばれるレベルの打者は適応能力にも優れているからだという。

「いい選手はなんでもできるよ。心配せんでも。自分のチームで4番打ってても、代表で7番って言われたら、そこで実力を出せるから。だから、本当に力がある選手を選べばいい。その戦力を使って勝つ野球をするのが代表監督だと思うわ」

 もっとも、阪神の監督を務めた2004年にはアテネ五輪(ウイリアムス、安藤、藤本)、2008年には北京五輪(新井、矢野、藤川)でチームの柱が代表入りし、ペナントレース中盤に苦しんだ経験を持つ。今でこそ「あれで負けたようなもんやからな」と苦笑いながらに振り返るが、送り出すチームを納得させるためにも旬の選手を集めるべきだと考えている。

 もし岡田氏が代表監督を引き受けていたら――。そんなことを考えてみるのも、また面白いかもしれない。

(Full-Count編集部)

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