長崎に加入、ヨルディ・バイスとは何者か

J1第18節が行われ、V・ファーレン長崎がFC東京に完封勝利をあげた。“下剋上”とまで言われた勝利の立役者が新加入のヨルディ・バイスである。

ピッチ上で大きな声で味方に檄を飛ばし、早くも“闘将”という声が名高いバイスだがどのような選手なのだろうか。解説していこうと思う。

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7歳からフェイエノールトに所属

バイスは7歳でフェイエノールトに加入し2007年まで同アカデミーで過ごした。トップチームに昇格したバイスは、背番号23をもらったが出番はなかった。

当時のフェイエノールトはロイ・マカーイ、ジョヴァンニ・ファン・ブロンクホルスト、ダニー・ランツァートらベテランのオランダ代表経験者組が揃い、若手にもジョージニオ・ワイナルダム、ジョナサン・デ・ガズマンらがいた。

J関係者でいうと湘南のアンドレ・バイーアもこの時期はまだフェイエノールトに在籍していた。だから、バイスはバイスでも同じフェイエノールトに在籍していたダニー・バイスの方が有名でヨルディ・バイスは全く無名の存在であったし選手層は厚くユース上がりの選手がいきなり出番を得るのは難しい状況だったのだ。

デ・フラーフスハプで躍動

そんな中、フェイエノールトはマイケル・ヤンセン、ディエゴ・ビセスワールと共にヨルディ・バイスをデ・フラーフスハプへローン移籍に出す。レギュラーをつかんだバイスは、他2名がフェイエノールトへ帰る中で完全移籍となり2010-11シーズンまでプレーした。2部降格も経験したが、チームに残留し1シーズンでエールディビジへ戻ると、その後はNACブレダ、ヘーレンフェーン、ローダJCとオランダの中堅チームでプレーしている。

筆者が最初にバイスを見たのもデ・フラーフスハプの試合であった。当時のバイスはどちらかというとボランチの選手でサイドバックもできるというタイプでシーズンを重ねボランチだけでなくセンターバックでもプレーするようになっていた。

2009-10シーズンのデ・フラーフスハプではオランダ2部であるが9得点、2013-14シーズンのNACでは6得点と守備だけでなく攻撃力もあるボランチというのが最初に持った印象であった。

その後、ルーマニアを経てオーストラリアのシドニーFCでプレー。気が付けばすっかりセンターバックを主戦場にしていた。シドニーでは元清水のアレックス・ブロスケらとプレーした。印象的な活躍を見せ、この夏に長崎へやってきた。

長崎では早速観光地を巡り歩き滝の写真をSNSにあげるなどしているが、1試合目からシーズンオフの短さをものともせず大きな奮闘を見せた。

オランダのミハイロヴィッチ

バイスの特徴を一言で言えばさしづめ「オランダのミハイロヴィッチ」といったところだろうか。

FC東京との試合では大きな声で3バックを引き締めたことから、コーチングや闘争心といった面に注目が集まったが、彼の売りはキックの質が高いことである。

2017-18シーズンのAリーグでは1583本のパスを成功させた。これはリーグで一番の数で、また3アシストを記録している。そうしたパス面での活躍から「(DFという)ポジションを無視している」という高評価を得た。

また、Aリーグでのゴールはなかったが、オランダ時代からずっとセットプレーを担当してきておりその右足から数々のFKゴールを決めている。

勿論そうした選手にありがちな守備のおざなりさもない。Aリーグでは73%の空中戦の勝率を誇り57%のタックルを成功させた。2017年のJリーグで73%以上の空中戦の勝利を見せたのはマウリシオ(浦和)の73.5%と鄭昇玄(鳥栖)の74.1%だけであり、屈強な選手が揃うAリーグでその強さは相当なものだ

シドニーFCは2017-18シーズンに圧倒的な強さをあげて優勝したが、その中であげた失点はわずか22(2位ニューカッスル・ジェッツで37失点)であり彼の役割の大きさがわかるだろう。

あえて弱点を探るとするならばスピード面ぐらいなもので、強さ高さそして足元のうまさと3拍子揃った選手である。

何故Jリーグが獲得できた?

では、なぜそんな選手が日本へ来たのだろうか。

1つは純粋に給与面の問題があるだろう。オーストラリアのシドニーFCではボボ(元ベジクタシュ)、ミロシュ・ニンコヴィッチ(元セルビア代表、元ディナモ・キエフ)の2人がマーキープレイヤーで彼の給与は抜群に高いものではなかったからだ。

同僚のアドリアン・ミエジェイェフスキはポーランド代表41capを誇り、525万ユーロ(およそ6億8000万円)という当時のポーランドリーグ最高移籍金でトルコのトラブゾンスポルへ移籍した過去がある。彼もまたマーキープレイヤーでなかったが、活躍を見せジョニー・ウォーレン・メダルというAリーグ最高の栄誉を勝ち取り、この夏に中国の長春亞泰へ移籍している。

こうしたAリーグで欧州でも実績のある外国人が短期間活躍した後に他チームへ引き抜かれるというのは1つのルートになっている。マーキープレイヤーではあるがボボも再びトルコへの移籍を決めているし、ウェリントン・フェリックスのマルコ・ロッシ(元パルマ)のように母国の下部リーグ(ロブル・シエナ)へ戻るというものもいる。

もう1つは単純にV・ファーレン長崎の手腕であろう。こうした日本へ来ることはできるが見落とされた選手というのは実に多いように感じる。何かと言えば韓国人、ブラジル人でJリーグの実績があるかどうかをチェックし、冒険をしなくなっているJクラブが多い中で、オランダ人でJでの実績のない選手をJ1で獲得するというのは大きなチャレンジだ。ヨーロッパのベテラン選手は往々にして怪我や運動量、スピードといった面で難を示しあまり試合にでずに去っていった物も少なくないからだ。

そうした中で、同じ九州の鳥栖がフェルナンド・トーレスを獲得したのと並び、長崎がヨルディ・バイスの獲得は大きく意味のあることだ。

大きな期待と共に後半戦の長崎の奮闘ぶりを見守りたいと思う。

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