統計調査の苦労 人知れぬ地道な作業 一軒一軒 足運び データ積み上げ

 厚生労働省による不正調査が明るみに出た毎月勤労統計。国の基幹統計の一つで、数字は各種政策につなげていく指標となる。こうした基幹統計の調査に当たっているのが、「統計調査員」と呼ばれる人たちだ。今回の不正調査問題を巡っては国に対し、国民の批判が高まっているが、統計に表れる数字を一つ一つ積み上げていく現場では、人知れぬ地道な作業がある。統計調査員や長崎県担当職員を取材すると、多くの苦労によってデータが収集されていることが分かった。

 「少しでも人のお役に立てればと」。多良弘子さん(65)=長崎市=は長崎県から任命を受け、通算約30年にわたり統計調査員を務める。公共の利益に貢献したとして昨春、藍綬褒章を受章した。

 最近は家計調査などに携わる。家計調査も、国が都道府県を通じて取り組む基幹統計調査の一つ。国内総生産(GDP)の約6割を占める家計最終消費支出の算出に用いられる。

 多良さんは長崎市内の2地区を担う。半年分の毎日の家計収支について、上半期に12世帯、下半期に別の12世帯に家計簿を書いてもらう。内容は現金収入のほか、食費、光熱費、通信費、プリペイドカードなど現金以外での購入費など細かい。約2週間おきに家計簿を回収し、記入漏れがないか確かめて長崎県に届ける。1世帯の対応だけでも、半年間に最低12回の家計簿の配布・回収を繰り返すことになる。

 「引き受けていただくまでが大変」と多良さん。統計法は基幹統計調査への回答義務を定めており、事前に長崎県から調査依頼文が住民に届くが、すんなりいくわけではない。「面倒」「共働きで記入時間はない」-。プライバシー意識の高まりもあり、嫌がる住民は少なくない。こうした住民に、多良さんは穏やかに、粘り強く協力を求める。「レシートを保管してもられば手伝う」と提案することも。長崎県統計課の笠山浩昭課長(58)は「調査員は統計法上の義務とのはざまで苦しんでいる」といたわる。

 ただ、多良さんは「嫌になったことはない」。自家用車で回り、訪問日時を厳守し、対象世帯との信頼関係を築いていく。「引き受けてくれた人に感謝。調査結果がニュースで報じられるとやりがいを感じる」

 多良さんのような統計調査員は長崎県内に約1530人。関わる統計は労働力調査、毎月勤労統計調査など56の基幹統計のほか、職種別民間給与実態調査など多様な一般統計調査も。調査員は一軒一軒に足を運び、データを積み上げている。

 調査員からデータを受け取る長崎県統計課の森幹太さん(24)も忙しい。家計調査は県内12人の調査員から月に約300の家計簿が届く。それをチェックし、問題がなければ国に送る。資料や備品を保管する作業室での整理も多く、調査を嫌がる世帯への折衝に土日に出向くことも。それでも森さんは「県に不信感さえ持っていた人と話し込んで納得してもらい、その人の調査票がきれいに書き込まれていたときはうれしい」。

 調査員、自治体職員らの苦労やダブルチェックを経て、統計の基となる数字は国に届けられ、集計され、世の中の姿を映し出す。それだけに多くの裏方が汗を流した統計の信頼を“小手先”の不正で揺るがした厚労省の責任は極めて重いといえる。

 長崎県は「日本近代統計の祖」とされる杉亨二(こうじ)の出身地。長崎県は「子どものころから統計への理解と関心を高めてほしい」(笠山課長)と小中学生向け出前講座などを進めている。

長崎県統計課の作業室で統計調査に使う備品などをチェックする森さん=長崎県庁

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