木星南極で発生した小さな嵐は、日本の本州が収まるサイズ

太陽系最大の惑星・木星で周回探査を実施しているNASAの木星探査機「ジュノー」。ジュノーは細長い楕円軌道を描いており、53日ごとに木星の表面へと接近するフライバイを実施しています。2019年11月に実施されたジュノーによる23回目のフライバイにおいて、木星の南極で新しい嵐が発生したことが明らかになりました。

■新しい嵐はテキサス州や本州が入るくらいの「小さな」サイズ

太陽の表面を写したようにも見えるこの画像は、ジュノーに搭載されている赤外線観測装置「JIRAM(Jovian Infrared Auroral Mapper)」によって撮影された木星の南極付近の様子。人の目に見える色ではなく、赤外線での観測データを着色したものとなります(可視光線での画像は後半に掲載)。中央に明るく写っている嵐の周囲を、6つの嵐が六角形を描くように取り囲む様子が写っています。このうち右下に見える小さな嵐が、今回ジュノーによって発生が確認された新しい嵐(直径およそ2000km)です。

木星は地球の11倍ほどの直径を持つ惑星なので、スケール感が地球とは異なります。以前から存在が把握されていた6つの嵐は、そのどれもがアメリカ合衆国本土(アラスカ州とハワイ州をのぞく)に匹敵するほどの大きさ。さきほど「小さな」と表現した一番新しい嵐でさえ、テキサス州がおさまってしまいます。「新しい嵐には日本の本州がおさまってしまう」と言い換えれば、スケールが実感しやすくなるでしょうか。

ただ、サイズが小さいとはいえ、新しい嵐も大きなエネルギーを秘めているようです。JIRAMの観測データを分析したところ、新しい嵐の平均風速は時速362km(秒速およそ100m)で、他の6つの嵐に匹敵するほどだとされています。

■ミッションが予定通りなら嵐の発生は観測できなかった

実は、ジュノーのミッションは順風満帆ではありません。現在ジュノーは木星を53日で一周する軌道を周回していますが、本来の計画では木星を14日で一周するように軌道を変更し、2018年中にミッションを終える予定でした。

しかし、メインエンジンのトラブルが理由でこの軌道変更は中止されました。53日で一周する軌道に留まったジュノーは、今もミッションを続けています。もしもジュノーが予定通りの軌道に入っていたら、2019年9月から11月のあいだに発生したこの嵐を見つけることはできなかったでしょう。

また、ジュノーは大きな3枚の太陽電池で電力を得ているため、木星の影に入ってしまうと電力が失われてしまいます。影にいる時間が12時間程度に達するとジュノーが冷えすぎてしまい、最終的にバッテリーが使用不能になる恐れがあることから、9月30日には木星の影を避けるため軌道変更が実施されました。

メインエンジンが使えないため、本来の用途ではないものの、この軌道変更には姿勢制御エンジン(RCS)が用いられています。姿勢制御エンジンは推力が小さいため、噴射時間は10時間半に及びました。軌道変更にメインエンジンが使えず姿勢制御エンジンに頼らざるをえないという点で、ジュノーはJAXA(宇宙航空研究開発機構)の金星探査機「あかつき」と同様の困難に挑んでいることになります。

長い周期の軌道に留まったことで延長されたジュノーのミッションは、2021年7月まで続けられる予定です。

Image Credit: NASA/JPL-Caltech/SwRI/ASI/INAF/JIRAM
Source: JPL
文/松村武宏

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