実用化直前、様々な5Gの利用シーン ーDOCOMO OpenHouseレポート3

NTTドコモが今春からサービスを開始する5GやAI、IoTなどの最新技術を活用した様々なサービスやソリューションの展示や講演を一堂に体験できる「DOCOMO Open House 2020」が東京ビッグサイト青海展示棟で開催された。

ここでは、5Gに関する展示を中心に紹介する。

NTTドコモ / ドコモオープンイノベーションクラウド(dOIC)

ドコモオープンイノベーションクラウドは、NTTドコモが提供するMECの特徴を持ったクラウド環境である。

5Gネットワークにより、端末から5G基地局までの通信は高速化されるが、インターネット側の通信がボトルネックとなる可能性もあり、(時間的制約という意味でのリアルタイム性を求められるものでは無いにしろ)低遅延性を厳密に求められるアプリケーションでは5Gの利用が難しいケースが考えられる。

このような課題に対して、dOICは、NTTドコモが提供する5Gネットワーク網にクラウド基盤を繋ぐ事で、インターネットを経由しパブリッククラウドにアクセスする場合と比較して、より低遅延な通信を実現する。

今回の展示では、dOICを利用したパートナー企業のソリューションも数多く紹介されたいた。

トレンドマイクロ / IoTセキュリティ基盤

IoTセキュリティ基盤について

トレンドマイクロは、dOICサービス向けのネットワークセキュリティを提供する。

IPSやアプリケーション制御などのUTM機能を始めとして、IoT端末のデバイス特定や、悪意ある端末からのアクセスを防ぐIoTレピュテーションなどの機能をdOIC上で利用する事ができる。
(トレンドマイクロが提供する、ネットワークセキュリティ機能を仮想化したTM VNFSをdOICにデプロイメントしている)

これにより、dOIC上のクラウドサービスに対するネットワークセキリティ対策が可能となる。

悪意あるIoTデバイスに対するネットワークセキュリティとして、ゲートウェイ周りでの対策も考えられるが、5G対応デバイスが普及すると、デバイスからdOIC上に直接アクセスするようなケースも出てくるため、本ソリューションの活用が期待される。

サン電子 / スマートグラス(AceReal)とドローンを用いた作業効率化

スマートグラス AceReal

AceRealは、ARスマートグラスならびに、資料や撮影動画の共有および音声通話などの業務支援アプリケーション、またアプリケーション開発を支援する開発環境(SDK)をトータルで提供している。

写真左奥のドローンが動画を撮影、クラウドを経由してディスプレイに表示している

今回のデモでは、ドローンで撮影した動画データをクラウド上に送信し、PCならびにスマートグラス上で共有していた。
これにより、熟練の作業者が現場にいなくても、遠隔地から現場のドローン操縦者にスマートグラスを活用して指示を出し、ドローンを用いたインフラ点検などを行うことができる。

また5Gにより、遠隔地とも鮮明かつ低遅延に動画を共有することができ、コミュニケーションのストレスを軽減し、作業の効率化が期待される。

デモを見せてもらったところ、完全に動作が同期されているとまではいかないが、体感でほぼ映像のずれは無かった。

正興電機製作所 / 無人警備ロボット

遠隔地でロボットが撮影している動画がディスプレイに表示されていた

正興電機製作所は、決められたエリアを自律走行する警備ロボットを提供している。

ロボットに搭載されたカメラや温度センサーから入力されたデータを、ロボットに搭載されたソフトウェアで判別し、例えば不審者の検知や、車両ナンバーを認識して駐車場管理などを行ってくれる。この他にも、火災検知やドアの開閉点検など、機能は多岐にわたる。

ネットワークはWi-Fiを利用しており、異常を検知した場合はネットワークを介して管理者に位置情報と合わせて通知する。
(位置情報はGPSを利用せず、ロボットが作成したマップと照合している)

今後は5Gを活用して、ロボットが取得した画像や環境データをクラウド環境に送信し、必要に応じて、リアルタイムにロボットを制御することで、警備サービスの向上を目指していくという。また、5Gの活用により、これまでは屋外などWi-Fiの敷設が難しい(コストがかかる)ようなエリアでの運用も容易になってくる。

ソニー / Virtual Production

PC上で簡単にスイッチャーを利用できる

youtubeなど、企業や個人が動画を用いて情報を発信する機会が増えている。

複数のカメラで動画を撮影した動画を切り替えて生配信する場合、スイッチャーと呼ばれる専用のマシンが必要となるが、操作性やコストの面で利用が難しかった。

Virtual Productionはスイッチャー機能をクラウド上で利用する事ができ、本格的なスイッチャーから機能を絞る事で、操作性を向上している。

デモを体験したが、非常に簡単で、直感的に操作できていた。

写真右が5Gモジュール搭載端末で、当該端末で撮影した動画をクラウドに送信している。写真の左が、操作端末(PC)となり、会場に設置されたカメラの画像が表示されていた。6台のカメラまで利用できるという。

NTTドコモ / 曲がるアンテナ

曲がったところから電波が出ている。

小学校か中学校の頃に、プリズムを用いて光の分散に関する実験を行ったことはないだろうか。
三角形のプリズムに白色光をあてると、虹色の光に分散されてプリズムから出てくる。

これは、プリズムと、光の波長による屈折率の違いから起こる事象で、波長の長い(周波数の小さい)赤色は屈折が小さく、波長の短い(周波数の大きい)青色の光は大きく屈折し、プリズムから出てくるというものであるが、光の入射角を変えていくと、ある角度で光がプリズムから出てこなくなってしまう。

少し乱暴だが、いわゆる光ケーブルと言われるものも上記と近い事象で、光を誘電体(ガラスなど)中に閉じ込めて、光の信号を送信し、情報を高速に伝達している。

ただし、光ケーブルが大きく曲がっていたりすると、(少し語弊があるが)光が外に漏れ出してしまう。

この現象を逆手に取ったのが、曲がるケーブルで、通常は信号を送るケーブルとして機能するが、一定以上曲げると、曲げた箇所から電波が漏れ出すため、当該電波を利用して無線通信を行う事ができる。

展示では60GHz帯の電波をケーブルから放出していた。曲げが大きい(Rが小さい)方が高周波の電波が出力されるそうで、例えば28GHz帯となると曲げが小さい(Rが大きく)なるという。

産業ロボットの柵外教示の実現に向けて

写真左上のカメラで動画を撮影し、5Gでクラウドに送信している。ロボットアーム側のコントローラも無線化されている

製造現場では、様々なロボットが稼働している。
作業ロボットによっては、動作中に危険を伴うため、写真のように一定のエリアを柵で囲い、作業者が立ち入らないよう義務付けられている。

ただし、製造現場においては、作業ロボットの動作調整などのため、ティーチング(教示作業)と呼ばれる動作プログラミングを行なっており、柵内で作業を行う場合も出てくる。通常より動作速度を落とすなどして、安全面を考慮した上で行うが、事故につながる事もあり、リスクを伴う。また、作業員不足により、遠隔地から作業を行うというような要望も出てきた。

展示では、カメラで撮影した動画を5G経由で遠隔地に送信し、遠隔地からカメラ画像を見つつ、作業ロボットにティーチングを行う実証実験が公開されていた。
作業ロボットのコントローラーも有線接続ではなく、5Gによる無線通信で遠隔地からコントローラに接続しティーチングを行う。

アームの位置決めなどの、現場でアームの動作を確認しつつ行なっていた緻密な作業を、遠隔地から行うため、動画データの低遅延な送信が必要となり、5Gの活用が期待されている。

東芝インフラシステムズ/クラウド型ID乗車システム

写真では見えにくいが、強く光っているところがIDリーダーになっている。

現在普及している改札機は、決済処理を改札機内で行なっているが、クラウドで決済処理を行う改札機が展示されていた。

ID情報を読み取るとクラウドにデータを送信し、クラウド側で処理をした結果を受けて、改札の開閉などを行う。
クラウドで処理を行うため、IDをかざしてから扉が開閉するまでにかかる時間が気になるが、5Gの利用により、実験環境では従来の仕組みと同じ程度のスループットが出ているという。

改札機はデータの入出力と、扉の開閉のみでよくなるため、将来的には安価な改札機が登場する可能性もある。

コスト面以外で言えば、来たるMaaSに向けての活用も視野に入っているようだ。
改札の決済システムをクラウド化する事で、MaaSアプリとの連携が容易になり、例えば、目的地までの最短経路と移動手段が案内され、配車サービスと電車を利用する。この時、決済も一気通貫で終わっている、というようなアプリケーションが登場するかもしれない。

リコー/点検業務効率化に向けたロボット

キャタピラで悪路もなんのその。写真だと見切れてしまったが、上部に全方位カメラが搭載されている

屋外、悪路や未舗装な環境での運用を考慮した、イングラ点検ロボットになる。
GNSSにより位置情報を取得し、またカメラが3台搭載されており、全方位カメラや前面設置のカメラ画像を、5Gでクラウドに送信し、遠隔地から動画を確認することができる。

フィールドの実証実験では、雑草が生い茂るなか、草が車輪に絡まることもなく太陽光発電施設の外観検査を行えたという。

ロボットが撮影している動画を、クラウド経由でディスプレイに表示している。キーボードからロボットの遠隔操作も可能。

また、動画を確認しながら、遠隔地より操作を行うこともできる。

展示会場では、ロボットからクラウド環境への通信は5Gとなり、クラウドからPCまではWi-Fi環境とのこと。
操作をしてみたが、感度はよく、PC側からの入力がロボットに動作として反映されるまで、1秒は掛らない程度であった。
(あくまでも体感だが、もっさりした感じは全く無かった)

今後はAIを活用した自律走行も取り込んでいく。

将来的には、今回のロボットが環境情報を取得するセンサーデバイスとして機能し、デジタル空間上に環境データを反映するデジタルツインの世界を実装していきたいという。

日鉄ソリューションズ、SEL/飛行艇ドローンによる通信エリア品質調査

目を奪われた飛空挺型ドローン

航続時間120分、航続速度72kmの大型飛行艇ドローンが展示されていた。
海上など、人による検査が難しいエリアにおいて、5G通信品質の検査を行うという。

実際にグアムで海上における通信品質調査を行っており、展示では当時の映像が流れていた。

5Gインフラ整備において電波がうまく届いているか、通信品質の調査を行う際に、例えば海上では船をチャーターしての検査となり、時間も費用もかかってしまうため、長距離航行が可能なドローンが利用されたとのこと。

飛行機型を取っているのは航続距離を稼ぐためで、プロペラ型だとプロペラの推進力のみで自重を支えつつ航行するが、飛行機型であれば翼から揚力が生じるため、単位重量あたりの航行能力が高い。
飛行機型だと滑走路が必要となるが、飛行艇型となっており、海上や河川からの発着が可能になっている。

富士通、フジテレビ/ローカルMEC

サーバー等の構築は富士通、サービス構築はフジテレビとのこと。

ローカルなエリアにMEC環境を提供、具体的には基地局内などに、MECサーバーを構築している。

スポーツ観戦やイベントなど、現地で撮影された動画を観客に共有する場合、動画データをクラウド上のコンテンツサーバーなどに送り、観客はスマートフォンなどでクラウドにアクセスし、動画をダウンロードすることで視聴が可能となる。

物理的には近い場所でデータをやり取りしているが、ネットワーク上は、基地局からオンターネットを経由して、どこかのサーバーにアクセスして、と遠い。
そこで、当該MECサーバーを利用することで、最も近い基地局から動画配信を行うことができ、低遅延な動画サービスの提供が可能となってくる。

スポーツ観戦など、動画の送信側と受信側(観客)が近く、またクライアント端末(観客)の物理的な移動が少ないケースでは、こういった仕組みが成立するのだろう。
特徴としては、汎用サーバー上に構築でき、また、基地局とモバイルキャリアネットワークの間に接続するだけ、とあるので移動基地局に設置して、特定のイベント向けに5G回線を用いた低遅延なサービスを提供する、など出来るかもしれない。

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