ロードキルと呼ばれる野生生物の交通事故死。個体数減少の大きな要因となっており近年、対策が求められている。対馬にのみ生息する国天然記念物ツシマヤマネコの交通事故死数は、環境省などが記録を取り始めた1992年度以降、昨年末までで合計112匹に上る。現在、ツシマヤマネコは全島に100匹弱しか生息していないとみられているが、年平均5匹が交通事故に遭っている。ロードキルの現状や防止に向けた取り組みを紹介する。
昨年12月12日午後、対馬市上県町の国道382号で、ひかれて間もない雌のツシマヤマネコの死体が見つかった。同省対馬野生生物保護センターによると、若い個体(亜成獣)で、頭や腰を骨折していた。本年度6匹目の交通事故死だった。
同センターによると、ツシマヤマネコの事故が最も多いのは、春から初夏に生まれた子ネコ(幼獣)が亜成獣に成長した9~12月。この時期に交通事故死した74匹中、亜成獣が50匹を占める。本年度については、死んだ6匹のうち、幼獣2匹、亜成獣1匹、成獣3匹となっている。
同センターの山本以智人・上席自然保護官によると、9~12月に事故が多いのは、亜成獣が親離れして自分の縄張りを求め、これまでより広い範囲を移動するからだと指摘。「事故に遭っていなければ、2~3月には交尾をして子孫を残していたかもしれない」とため息をついた。
上島(かみじま)と下島(しもじま)の大きく二つに分かれている対馬。ツシマヤマネコは、ふんの痕跡調査などから上島(美津島町の一部と豊玉町、峰町、上県町、上対馬町)の生息密度が高いとみられる。交通事故で死んだ112匹中、下島(美津島町の一部と厳原町)では、亜成獣の雄1匹だけで、他は上島に集中している。
事故死が最も多かったのは2012年度の13匹。傷つき、センターが保護した2匹のうち、12年11月に上対馬町で保護された亜成獣の雄は、助かるケースがまれであることから「マレ」と命名。13年6月、町内の山林に放されたが、17年2月に峰町で車にはねられ死んだことが、首に埋め込まれた個体識別用のマイクロチップで確認された。
センターや地元自治体は、事故対策を進めている。発生地点に「この付近、ヤマネコ飛び出し注意」などと記した啓発看板を順次置いている。上県町にある県道沿いのコンクリートのり面(高さ約3メートル)には18年度初め、野生動物が林の中に逃げ込めるよう、足場となるくいを打った「ネコ階段」を設置した。年度末には、自動撮影カメラに国天然記念物ツシマテン(イタチ科、準絶滅危惧種)の姿がとらえられており、野生動物への一定の効果が期待できる。
山本上席自然保護官は「人にも生きものにも優しい運転をドライバーに呼び掛けている。(道路下にネコ走りを設けるなど)自然共生型の公共工事を普及し、地域の経済活動との両立を進めることが今後の課題。県や市と連携していきたい」としている。
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