海があった頃の火星は寒冷ではなく、温暖・半乾燥な気候だった

火星に送られた探査機や探査車によって得られた情報から、かつて火星の表面には海ができるほどの水が存在していたと考えられています。今回、海が存在していた頃の火星は「温暖かつ半乾燥の気候だった」とする研究成果が発表されました。

■当時の火星は海ができるほどには温暖で、雨も降っていた

海や湖があった頃の火星を描いた想像図(Credit: NASA / Goddard Space Flight Center)

現在の火星の表面はとても乾燥していますが、かつては海ができるほどの水が液体として存在していたと考えられています。液体の水が存在していた環境下で形成されたとみられる地形なども見つかっていますが、これらが「温暖な気候のもとで形成された」のか、それとも「寒冷な気候で氷河の一部がとけることで形成された」のかについては、はっきりしていませんでした。

今回、Ramses Ramirez氏(東京工業大学地球生命研究所)らの研究チームは、北半球に海があったとされる頃の火星の気候をシミュレーションによって再現しました。その結果、当時の火星は雪ではなく雨が降るほどには温暖だったものの、氷河が成長できるほどには水蒸気量が多くない「温暖だが半乾燥」で、現在の地球でいう「ステップ気候」のような気候だった可能性が示されたとしています。

シミュレーションでは、火星の平均気温が摂氏マイナス3度~プラス7度の範囲にあった場合、現在見つかっている火星表面の地形などを形成するのに十分な量の雨がもたらされることが示されました。いっぽう、平均気温が摂氏マイナス3度を下回ると海が凍り、雨をもたらす水の循環が生じにくくなるため、火星に今も残る地形を説明するにはこの温度よりも温暖な気候でなければならないといいます。

従来の研究では、火星の水は標高の高い土地に氷床として存在し、気候も寒冷だったとされてきました。ところが、最近の火星探査では寒冷な気候では説明できない発見ももたらされています。研究チームによると、今回の研究では水が存在していたのと同じ時期に火星の巨大な火山が成長したと仮定し、噴火によって大気中に放出された二酸化炭素や水素の影響を考慮したところ、これまでの観測とも矛盾しないシミュレーション結果が得られたとしています。

■温暖・半乾燥な気候は数十万年から1000万年程度は続いていた可能性

研究チームでは、地球のステップ気候に似た火星の温暖・半乾燥な気候は、数十万年から1000万年ほど続いたと考えています。昨年10月に発表されたゲール・クレーターの水質に関する研究では、火星の温暖な期間が最低でも100万年ほど続いたとされており、今回の研究成果が示した期間におさまります。

研究に参加したBob Craddock氏(スミソニアン協会、アメリカ)は、今回の研究成果について、過去の火星で形成された地形や地質の特徴をうまく説明できる「初めての気候モデル」になったと語っています。

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Image Credit: NASA / Goddard Space Flight Center
Source: ELSI
文/松村武宏

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