大学野球の学生監督が異国の地で目にした子どもたちの“野球事情” 「多様性が必要」

奈良教育大学硬式野球部で学生監督を務める山口裕士さんがドミニカ共和国の少年野球を視察【写真:本人提供】

桑田氏や松井氏の視察の記事を読んで、興味を持ち実際に行動

 奈良教育大学硬式野球部は、近畿学生野球連盟3部に属している。監督は今春から4回生になる山口裕士さん。山口学生監督は、昨年12月から1月にかけて、奈良市教育委員会の「トビタテ! 留学JAPAN日本代表プログラム『地域人材コース』『奈良を「開く」人材』グローバル人材プロジェクト」を利用してドミニカ共和国の少年野球を視察した。その折の話を聞いた。

――視察しようと思ったきっかけは?

「桑田真澄さんや松井秀喜さんがドミニカ共和国の野球を視察された記事を読んで、僕も行ってみたいと思いました。そこで地図で調べて訪問することにしました。スペイン語はできなかったので、最初の1か月はほとんど話すことはできませんでしたが、身振り手振りで交渉しました、でも、親切な人が多くて、あまり困りませんでした。治安も良くて、受け入れてくれる環境がありました」

――どんなところを周りましたか?

「首都サントドミンゴを中心に、4つの施設を回りました。1つ目はセントオリンピコ。オリンピック用の施設を使って子どもたちに野球を教えていました。野球場が4~5面あって、大人のボランティアが指導しています。子供の数がすごく多かったです。僕もノックを打たせてもらったりしました。野球を楽しむことを目的にした施設ですね。

 2つ目は、UNPHU(ペドロ・エンリケ・ウレーニャ大学)という大学の中にある野球のアカデミー。野球を習い事とするスタイルです。きれいなグラウンドと設備が整備され、お金を持っている家の子どもが集まります。午前中は比較的真剣に野球をやる子が集まっていました。上のレベルを目指しているようでした。午後は野球を普通の習い事のように習う子どもが来ていました。午前と午後では本気度の差があるように思いました。3つ目はアカデミアハポン。日本人の島袋涼平さんが経営しておられる野球塾です」

――島袋涼平さんは、おかやま山陽高校から2006年にアトランタ・ブレーブスとマイナー契約、帰国後、四国アイランドリーグplusの香川、BCリーグの富山、石川、信濃を経てメキシカンリーグでもプレーした内野手ですね。

「そうです。島袋さんは、数人の若い選手と共同生活をしながら指導をしていました。ここではメジャー・リーグの下部組織であるアカデミーに入ることを目的にしています。島袋さんは生活の苦しい選手には生活費を出していました。契約できれば、契約金から何%かを報酬としてもらうシステムです。ドミニカ共和国の子供たちは、規律についてあまり教えられていません。時間やルールを守れないことが多いのです。現地の指導者も人間関係を作るのは上手ですが、規律を教えるのは苦手です。島袋さんのように、選手にきっちりと規律、マナーを教える指導者は大事です。また、選手に動画を見せるなど、先進的な指導も行っていました」

ドミニカで感じた野球への関わり方の多様性「野球人口が減っていく中で必要なこと」

――ドミニカ共和国には甲子園のような大きな大会はありませんから野球少年の目標はMLBのアカデミーに入ることなんですね?

「そうです。4つ目に訪問したマニー・アクタリーグもMLBとの契約を目指しています。マニー・アクタ氏はナショナルズ、インディアンスで6シーズン監督を務めた有名な指導者です。ここには8歳から14歳の子が通っています。この施設は、サントドミンゴではなくマニーさんの出身地であるサンペドロ・デ・マコリスにありますが、教育内容が素晴らしかったです。マニーさんは、MLBと契約をして大金を手にしたドミニカ共和国出身の選手が、お金の使い方を知らないために騙されて破綻する例をよく目にしてきました。だから野球だけでなく、いろいろなことを学ばないとだめだと考えたのです。

 だからマニーさんの施設には、学校に行っていないと入れません。この施設には政府がグラウンドを提供しています。国も後押ししています。そのグラウンドには教室もあって、英語とプログラミングを教えています。ドミニカ共和国の学校は午前中に終わるなど、教育が不十分なので、学校に行っている子どもでも足りない部分があります。それを補っているんです。子どもたちはグラウンドに来るとゴミを拾います。これには感心しました。ただ、あとでごみを捨てる子どもも見かけました。これはよくわかりません(笑)」

――ドミニカ共和国には、野球について様々な学びの場があるのですね。

「それが素晴らしいと思います。子どもたちは野球といろいろな関わり方ができます。日本でも、本気で甲子園やプロ野球を目指す子どもがいる一方、ただ遊びで野球をやりたい子もいます。そうした子どもの様々なニーズを受け入れることができる場所が必要ではないかと思いました。野球人口が減っていく中で、そうした多様性が必要だと思いました。ドミニカ共和国滞在中に堺ビッグボーイズ中学部の阪長友仁監督にお目にかかりました。セントオリンピコの施設にアテンドしてくださいました。またウインターリーグも一緒に観戦しました。阪長監督は『自分の力で見たいものを見て、知りたいことを知るのが大事。その過程が大切だ』とおっしゃいました。今回のドミニカ共和国訪問を、僕の今後の活動に役立てたいと思います」(広尾晃 / Koh Hiroo)

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