「開幕戦」でも多くの伝説残す長嶋茂雄 4打席4三振で始まり、NPB記録も…

巨人・長嶋茂雄終身名誉監督【写真:Getty Images】

プロ野球公式戦は1936年4月29日に開始、巨人米国遠征で参加せず

 プロ野球は、今から84年前の1936年4月に開幕した。記念すべき開幕戦は1936年4月29日だった。4月29日は、プロ野球史上最も遅い開幕日だ。今年は現時点では4月24日を目標に準備が進められているが、新型コロナウイルスの感染状況次第では「遅い開幕日記録」を書き換えるのではないかと思われる。

 当時は各球団のフランチャイズはなく、大東京、名古屋、大阪タイガース、名古屋金鯱、東京セネタース、阪急の6球団が甲子園球場に集結。この日から総当たりのリーグ戦をはじめた。しかし、この開幕シリーズに東京巨人軍は参加していない。2月から前年に続く2回目のアメリカ遠征を行い、帰ってきたのは7月だった。

 開幕日に、大阪タイガースのマウンドに立ったのは呉港中から入団した19歳の藤村富美男。藤村は名古屋金鯱軍を相手に1安打11奪三振4四球で完封勝利を飾った。プロ野球最初の完封投手となる。後年、ミスタータイガースとして数々の打撃記録をマークする藤村だが、最初の記録は投手としてのものだった。

 巨人は1936年だけではなく、1953年にも開幕戦に“遅刻”している。この年も2月にカリフォルニアに遠征したが、帰国が4月4日になったために、3月28日の開幕に間に合わず、4月10日からペナントレースに参加している。

 また、1951年の広島は資金難によって存続が危ぶまれていた。球団解散の危機に瀕していたため3月29日の開幕シリーズには参加せず。広島市民の支援もあって4月2日に資金繰りがついたことから、4月7日にペナントレースに参加した。

1958年開幕戦で巨人のゴールデンルーキー長嶋は国鉄・金田から4打席連続三振

 昭和の開幕戦で多くの人々の記憶に残っているのは「長嶋茂雄の4打席連続三振」だろう。

 1958年4月5日、後楽園球場での開幕戦、巨人対国鉄は「プロNo.1投手と大学No.1打者の対決」として注目された。1950年に国鉄に入った金田は25歳になるこのシーズンまでに、既に通算182勝を挙げていた。金田は「大学生何するものぞ」という気概で、ゴールデンルーキー長嶋茂雄に対した。

第1打席 空振り ストライク ボール 空振り
第2打席 ボール ボール ファウル ボール 空振り 空振り
第3打席 空振り 空振り 空振り
第4打席 ボール ボール ストライク ボール 空振り 空振り

 バットに当たったのは、たったの1球だった。金田は翌4月6日も8回からリリーフ登板したが、また長嶋から三振を奪っている。長嶋にとっては、最悪のスタートだったが、ここから立ち直るのがミスター・ジャイアンツ。プロ野球記録となる10本の開幕戦本塁打を記録している。

 1959年4月11日 国鉄戦1号(金田正一)
 1960年4月2日 国鉄戦1号(村田元一)
 1963年4月13日 阪神戦1号(小山正明)2号(小山正明)
 1968年4月6日 大洋戦1号(平松政次)
 1970年4月12日 中日戦1号(小川健太郎)
 1971年4月10日 広島戦1号(大石弥太郎)
 1972年4月12日 阪神戦1号(江夏豊)
 1973年4月14日 ヤクルト戦1号(松岡弘)
 1974年4月6日 ヤクルト戦1号(松岡弘)

 4三振を喫した翌年に、その金田から開幕1号を打ったのを皮切りに、9年で10本打った。セの全球団が被弾している。このうち、1960年を除く9本は、開幕先発投手から打ったもの。開幕日に他球団のエース級を打ち砕いたのだ。まさに絵になる男の面目躍如だった。

昭和最後の開幕戦、日本初のドーム球場での初本塁打はヤクルトのデシンセイだった

 昭和最後の開幕戦は、1988年だった。この年3月、東京ドームが開場する。これまでのプロ野球本拠地球場よりも両翼が約10メートルも長く、「ホームランは出にくくなるだろう」と言われていた。

 開幕は4月8日。折からの寒波襲来で、東京地方は80年ぶりの大雪となり、積雪9センチ。前年までの後楽園球場なら中止になっただろうが、東京ドームでの開催に支障はなかった。球団発表5万6000人の大観衆の前で、東京ドーム第1号を打ったのはヤクルトのダグ・デシンセイ。MLBで237本塁打を打ったスラッガーは、2回、巨人史上最年少の20歳で開幕投手となった桑田真澄の出ばなをくじいた。

 この試合は、皇太子ご一家が観戦されていた。皇太子は翌年には即位して天皇となる。現在の上皇陛下だ。一緒に観戦されていた浩宮徳仁親王は、ヤクルトファンとして知られていた。現在の天皇陛下だ。

 昭和最後の開幕戦も、今から思えば象徴的な試合だったといえよう。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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