広島浮上の鍵を握る“若鯉150キロトリオ” 新勝利の方程式でリリーフ改革なるか?

広島・島内颯太郎、ケムナ誠、塹江敦哉(左から)【写真:荒川祐史】

開幕から中崎が不在、新助っ人スコット、菊池、一岡が救援失敗を重ねる…

リーグ3連覇から2年。佐々岡真司新監督のもと、V奪回を目指すシーズンとなった広島だが、60試合を消化した時点で5位と苦戦が続いている。菊池涼介や會澤翼など、オフに移籍の可能性があった選手が残留し、ドラフト1位ルーキーの森下暢仁が先発で期待に違わぬ活躍を見せるなど、リーグでもトップクラスの戦力はあるが、なかなか波に乗り切れていない。

その最大の要因となったのが、リリーフ陣の不調だ。3連覇中に守護神だった中崎翔太はオフの右膝手術の影響で出遅れ、昨年後半に代役を務めたフランスアも不振。絶対的な存在が不在の中、開幕からクローザーに指名された新外国人のスコット、菊池保則、一岡竜司がことごとく救援失敗を重ね、ブルペンは崩壊状態となった。

この厳しい状況の中、チームに光を与える若手投手が台頭しつつある。現在はセットアッパーの役割を任されている塹江敦哉、中継ぎとして存在感を発揮しているケムナ誠、島内颯太郎の快速トリオだ。いずれもストレートの最速は150キロを超え、塹江は高卒6年目の23歳、ケムナは大卒3年目の25歳、島内も大卒2年目の23歳と将来性豊かな若手有望株だ。

3人の中で唯一、開幕1軍を果たしたのが塹江で、今季は30日終了時点で25試合に登板し、3勝2敗13ホールド、防御率2.45の成績を残している。香川県出身の塹江は県内でも屈指の進学校である高松北高の出身で、英語も堪能なインテリ左腕として注目された。高校時代から150キロを計時し、プロ入り後もU-23ワールドカップの日本代表に選出されるなど、左腕不足だったチームで期待されたが、制球難に苦しみ、4年目の18年まで1軍登板はわずか3試合のみだった。

5年目の昨季、夏場に3年ぶりとなる1軍昇格を果たすと、シーズン終盤には先発も任されるなど、11試合に登板した。今季は開幕からブルペンの一角として好投を続け、7月6日のヤクルト戦で待望のプロ初勝利をマーク。リリーフ陣に不調な選手が多い中、徐々にポジションを上げて現在の位置まで到達した。

塹江、ケムナ、島内は150キロを超える直球を持つ“快速トリオ”

7月5日に1軍昇格したケムナは、ロングリリーフも含めたビハインド時の登板が主で、まだ勝敗やホールド、セーブはない。アメリカ人の父と日本人の母を持つケムナは、米国ハワイ州生まれだが、5歳から高校卒業までを広島のキャンプ地である宮崎県日南市で過ごした。幼少時からキャンプが行われる天福球場に通ったという右腕は、プロ入り後は恒例となっている春季キャンプ初日の激励会で、地元園児から監督に向けて「ケムナ選手のことをよろしくお願いします」と、毎年のように名前が挙がっていた。

日本文理大出身と中央球界では無名の存在で、大卒ながら将来性を期待されての指名だった。プロ2年目の昨季、初の1軍昇格となった9月にプロ初登板を果たした。大量リードを許した展開で、わずか1イニングのみの登板だったが、150キロ超を連発した球速掲示板の表示に、マツダスタジアムのスタンドからは1球ごとにどよめきが上がっていた。昨秋キャンプでは1軍に抜擢され、「真っ直ぐの向上」を課題に挙げていたが、その成果が今季、1軍で発揮されつつある。

ケムナが昇格した2日後の7月7日には、プロ2年目の島内が1軍登録された。ルーキーイヤーから25試合に登板するなど、即戦力の期待に応えていた右腕は、今季もここまで中継ぎとして勝ちゲームでも起用され、2ホールドを記録している。18年ドラフト2位入団の島内は、九州共立大卒で大瀬良大地の後輩としても注目された。持ち味のストレートの最速は157キロを計時しており、チェンジアップ、フォークを武器に、絶対的なクローザー候補として有望な存在だ。

8月11日の中日戦では、ビハインドの展開ながら3番手として登板し、5者連続奪三振を記録して強烈なインパクトを残した。昨季10.36を記録した奪三振率は、今季は30日終了時点で13.50とさらに上がっており、不振が続くチームでも、その存在感は日に日に大きくなっている。

佐々岡監督が掲げるリリーフ投手の条件の一つ「終盤を抑えるパワーピッチャーが必要」

佐々岡監督は、就任当初からリリーフ陣の整備とその重要性を強調していた。春季キャンプでも「昨年は終盤に僅差のリードを守れずに落とす試合が多かった。勝てる試合を落としてしまう、その1つ1つの積み重ねが、シーズンを通すと大きなものになってしまう」と、ブルペンの再編に着手した。当初の構想ではスコット、DJ・ジョンソンの新外国人にフランスアを加えた3人を中心に、「若手の中で、リリーフの枠に何人、入って来られるかが重要になる」と新興勢力の台頭に期待していた。

リリーフ投手の条件のひとつとして、指揮官は「打者の技術やレベルも自分たちの時代に比べて格段に上がっている。我々が現役の頃は150キロを投げる投手がいれば凄いと言われていたが、今は珍しくない時代。完投する投手が少なくなって7回以降が重要になる現在の野球では、150キロ超の速球で打者を圧倒して、終盤を抑えるパワーピッチャーが必要になる」と、重要な要素として球速を挙げていた。

塹江、ケムナ、島内の3人は、佐々岡監督が言うその基準を満たしている。昨季は1軍投手コーチだった佐々岡監督だが、それまでは4年間、2軍投手コーチを務め、その手腕には定評があった。今季は先発ローテに定着した遠藤淳志も含めて、ファームの時代から指導していた教え子たちが、新監督の危機を救う存在になりつつある。“佐々岡チルドレン”が、後半戦の広島浮上のカギを握っている。(大久保泰伸 / Yasunobu Okubo)

© 株式会社Creative2