鷹とロッテのデッドヒート続くパ・リーグ セイバー指標から見る9月MVPは誰?

日本ハム・西川、オリックス・山本、楽天・浅村、ソフトバンク・千賀(左から)【写真:石川加奈子、荒川祐史】

貯金を増やしたロッテで特筆すべき救援陣、澤村加入もプラス

シーズンも終盤戦へと突入している2020年のプロ野球。パ・リーグではソフトバンクに立ち、ロッテがそれを猛追する形が続いている。そのパ・リーグの9月の月間成績は以下の通りとなった。

ロッテ 15勝11敗
打率.240 OPS.694 本塁打16 援護率4.50
先発防御率4.11 QS率50.0% 救援防御率2.48

オリックス 13勝11敗
打率.259 OPS.734 本塁打26 援護率5.51
先発防御率3.32 QS率53.8% 救援防御率4.04

西武 14勝12敗
打率.231 OPS.666 本塁打22 援護率3.91
先発防御率4.93 QS率38.5% 救援防御率3.21

楽天 12勝14敗
打率.227 OPS.688 本塁打28 援護率3.61
先発防御率5.02 QS率30.8% 救援防御率3.77

ソフトバンク 11勝13敗
打率.245 OPS.682 本塁打23 援護率3.75
先発防御率3.32 QS率53.8% 救援防御率2.82

日本ハム 11勝15敗
打率.271 OPS.721 本塁打14 援護率4.26
先発防御率3.26 QS率53.8% 救援防御率4.32

9月は月間首位のロッテと最下位の日本ハムの差がわずか4ゲーム差しかなく、リーグ全体として接戦になりました。そのため順位に大きな変動は起きていませんが、着実にロッテが貯金を作り、ソフトバンクを追いかけています。

ロッテで特筆すべき数字は月間救援防御率2.48。これはリーグ1位です。ロッテの救援陣の9月成績は

東條大樹 登板9 防御率1.29 WHIP1.86 奪三振率11.57
小野郁 登板10 防御率0.00 WHIP1.04 奪三振率7.27
唐川侑己 登板9 防御率2.08 WHIP1.27 奪三振率6.23
ハーマン 登板6 防御率3.18 WHIP1.24 奪三振率12.71
益田直也 登板11 防御率2.45 WHIP1.27 奪三振率7.36

と盤石の布陣となっています。ここに9月8日、巨人からトレードで澤村拓一が加入することになりました。16日にハーマンが登録抹消になってからは、澤村が8回を任されることが多くなり、最速157キロのストレートと150キロを超える高速スプリットで三振を量産。9試合の登板で防御率1.04、WHIP0.81、奪三振率13.50を記録し、チームに大きく貢献しています。

ロッテは9月も対ソフトバンク戦で5勝1敗と大きな貯金を作った一方で、楽天には3敗、通算でも6勝12敗と苦手としています。なお、ソフトバンクは楽天に対して、12勝9敗と勝ち越しているので、ソフトバンク、ロッテ、楽天でいわゆる「三すくみ状態」が形成されています。

また、今月は西武でも救援投手陣の活躍が光りました。

宮川哲 登板8 防御率1.42 WHIP0.95 奪三振率9.95
森脇亮介 登板8 防御率0.00 WHIP0.38 奪三振率11.25
平良海馬 登板11 防御率0.87 WHIP1.26 奪三振率11.32
増田達至 登板10 防御率0.90 WHIP1.10 奪三振率8.10

この4投手はしっかりと打者を抑えていることがわかります。9月は6回までリードしていた10試合全てで勝利しています。

柳田や浅村を抑え、ただ1人wRAAで10を超えた西川遥輝

そんなパ・リーグの月間MVPは10月7日に発表される予定ですが、ここでは、セイバーメトリクスの指標による9月の月間MVP選出を試みます。

打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりもどれだけその選手が得点を増やしたかを示すwRAAを用います。各チームのwRAA上位3名は以下の通りです。

西武 スパンジェンバーグ6.52 源田壮亮5.95 木村文1.60
ソフトバンク 柳田悠岐7.00 川島慶三5.25 高谷裕亮2.38
楽天 浅村栄斗8.51 小深田大翔3.77 島内宏明2.14
ロッテ 角中勝也6.08 マーティン5.72 安田尚憲2.97
日本ハム 西川遥輝10.0 近藤健介8.58 大田泰示2.13
オリックス 吉田正尚7.00 モヤ5.22 T-岡田4.01

今月、パ6球団で最もチームOPSが高かったのはオリックス。主砲の吉田正は9月もハイクオリティなバッティングを見せ、現在首位打者争いのトップをひた走っています。また9月17日に1軍登録されたモヤが6本塁打、OPS1.167と大活躍、T-岡田もOPS.900と復調、杉本がOPS.813とようやく打線に活気が見えてきました。8月に2点台だった援護率も9月は5.51とリーグ1位となりました。

日本ハムは月間のチーム打率.271とチーム出塁率.351がリーグ1位ですが、それを牽引するのが西川と近藤です。近藤は9月も出塁率が.474と高水準を保ち、シーズン出塁率は10月3日現在で.466。NPB記録の.487とは少し差ができた感はありますが、大記録更新に期待は持てます。西川は高い出塁率だけでなく、リーグ4位の長打率、リーグ3位のOPS、さらにはリーグ1位の盗塁数でチームに大きく貢献してきました。wRAAでは唯一の10点台とリーグ1位を記録しており、9月のセイバーメトリクス指標による打者部門のMVPは西川を選びます。

西川遥輝(日本ハム)wRAA10.00
打率.340(リーグ2位)OPS.948(リーグ3位)盗塁10(リーグ1位)出塁率.458(リーグ2位)長打率.489(リーグ4位)

4勝1敗、防御率0.73の山本はセイバー指標でも優秀

投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標RSAAを用います。ここでのRSAAはFIPベースで算出します。各チームのRSAA上位3名は以下の通りです。

西武 森脇亮介3.00 増田達至1.31 宮川哲1.17
ソフトバンク 千賀滉大7.35 ムーア2.91 和田毅2.74
楽天 松井裕樹3.71 津留崎大成2.17 寺岡寛治1.54
ロッテ 美馬学4.97 澤村拓一2.40 二木康太1.86
日本ハム 上沢直之4.94 バーヘイゲン4.35 上原健太3.49
オリックス 山本由伸8.06 山田修義2.82 澤田圭佑2.60

9月は月間4勝1敗、防御率0.73だったオリックス山本が公式の月間MVP最有力候補でしょうが、セイバーメトリクスの観点からもチームへの貢献が大きいことがわかります。

9月は

37イニング QS率100% HQS率100%
防御率0.73(リーグ1位) 被打率.138(リーグ1位)
奪三振46 奪三振率11.19 被本塁打1
WHIP0.81 K/BB3.54 FIP2.04

という内容です。

最速156キロを誇るストレートも凄まじいですが、多彩な変化球も切れ味が素晴らしい。空振り率10%以上のフォークもさることながら、それ以上に空振りが取れる高速スライダーは被打率1割以下。援護率は3.00と相変わらずの無援護ぶりですが、5試合全てでHQSを達成。完投こそないですが、イニングイーターとしてチームへの貢献も十分に果たしました。よって9月のセイバーメトリクス指標による投手部門のMVPは山本とします。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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