イチゴ狩りの集客競う 県内農園がバリアフリー化や多品種栽培へ

 早春から大型連休にかけて手軽なレジャーとして人気のイチゴ狩り。県内の観光農園では温室のバリアフリー化や多品種栽培などを手掛ける施設が増えてきた。「観光農業は工夫次第で伸びしろがある」とイチゴ農家。栽培技術の向上や農家の経営多角化を背景に、付加価値の要素を加える現場の試みを追った。

 温室直結の屋根付き駐車スペースを設けたのは横浜市都筑区の「ひでくんちのいちご畑」。コンクリートの地面は歩きやすく、雨でも傘を差さずに乗降できる。温室内外の段差もなくし、高齢者などに好評だ。

 現代表の田丸秀昭さん(32)が家業を引き継いだ10年前、大消費地に近い好立地を生かし観光農園事業を始めた。

 バリアフリー化のきっかけは「つえや押し車が手放せなかった祖母の姿」。温室内も車いすやベビーカーを利用する人が通りやすいよう、一部の通路幅に余裕を持たせている。こうした工夫が評判を呼び、高齢者施設からの問い合わせが続々と入るように。今季は40施設を受け入れるという。

 多品種を栽培し、開園期間中に途切れなくイチゴ狩りを提供するのは平塚市の「すぎやまいちご園」。園主の杉山圭一さん(56)はイチゴ栽培を手掛けて38シーズン目。昨季から「おいCベリー」「べにほっぺ」など7種類に増やし、甘みや酸味、香りといった食べ比べを楽しめる。

 苗を定植した直後の徹底した水やりが成長の鍵を握ると説明する。先代や肥料業者のアドバイスから編み出した工夫だ。「病気になりにくく、大きくなくてもしっかり育ちますよ」 秦野市の「ファームスクエア丹沢の森」では温室にモーツァルトのバイオリン協奏曲を流す。「優雅な雰囲気でしょう」と園長の三武裕介さん(42)。

 2011年にイチゴ狩りを始める際、醸造過程でこうじ菌にクラシック音楽を聴かせる市内の酒造会社の取り組みにヒントを得た。「満足して帰っていただくのが一番」。接客時の声掛けタイミングも重視。リピーター獲得に小さな努力を重ねる日々だ。

 創意工夫が広がる背景について、県農業技術センター(平塚市)の担当者は「栽培技術の向上とイチゴ農家の経営多角化が進んだのが一因では」と推測する。2000年代に高設栽培が普及。立ったまま作業でき、育苗管理が効率化するなどして収穫量が安定。市場出荷を専門にしていたイチゴ農家も小売業者や菓子店などに卸す傾向が出てきたという。

 生産者の代替わりや集客力が高い近隣施設のオープンなどの変化が意識改革に結び付く例もある。担当者は「何より、自分が育てた作物を目の前で味わってもらえると生産者の励みになる」と話している。

 問い合わせは、ひでくんちのいちご畑はホームページ、すぎやまいちご園電話090(3918)1583、ファームスクエア丹沢の森電話080(2098)4452。

© 株式会社神奈川新聞社