量より質のインバウンド戦略に「異議あり」福岡は独自性を出すべき

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日本へ外国人観光客(インバウンド)が戻りつつある。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長は出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、「アジアの玄関口」を自任する福岡に住む私たちは、「量より質」という政府の戦略とは違う独自の外国人観光客の受け入れ姿勢が求められると訴えた。

中国本土からの観光客はコロナ禍前の95.1%減

つい先日のこと。博多駅から大分県の由布院駅へ行くJRの特急「ゆふいんの森1号」に乗った。車内は満席。そのほとんどが外国人で、しゃべっている言葉から判断して韓国人、台湾人、タイ人…。どなたも楽しそうで、待ちに待った日本への観光旅行を満喫している様子だった。

列車に乗らなくても、たくさんの外国人観光客と出会えるようになった。福岡市なら天神や博多駅周辺、大濠公園。このスタジオのある百道浜海浜公園も。とくに韓国の若い世代が目立つ気がする。韓国では男性は丸い眼鏡、マシュマロのようなヘアスタイルが人気のようで、すぐに分かる。

新型コロナの規制緩和で、インバウンド(=外国人観光客)が戻って来たのを実感する。だが、以前とは違う。何か足りない…。そう、中国本土からの観光客だ。一見、中国人と思われる観光客の声に聞き耳を立てていると、中国の標準語と違う台湾語でしゃべっている。また、スーツケースに付いている航空会社のタグで、どこから来たかも判別できる。

中国から福岡へ来る観光客といえば、やはりクルーズ客船を利用してというイメージが強い。福岡市の港湾振興部にたずねてみた。「海外から博多港に来る」または「博多港を出て海外の港へ向かう」クルーズ客船は2020年には、新型コロナウイルスが広がり始めた2月以降ゼロ。2021年、2022年は通年でゼロ。今年に入ってからもきょう2月23日までゼロ。つまりコロナ禍以降、博多港には一隻のクルーズ客船も寄港していない。今後の寄港予定も現在のところ、ない。

一方で、コロナの感染状況が落ち着いてきたこともあり、日本政府は個人旅行の受け入れや、ビザ免除措置を再開した。また円安傾向もあり、2022年12月の訪日外国人は137万人。前の月(11月)に比べ約1.5倍となった。やはり韓国からが大幅に増加。タイからの客も回復基調にある。

続いて今年1月の統計では、訪日外国人が150万人にまで回復した。旧正月(春節)休みもあり、特に東アジアからの訪日客が100万人を超えた。国・地域別では韓国57万人、台湾が26万人、香港が15万人。とはいえ、コロナ禍前の2019年1月に比べると、まだ56%の水準にとどまっている。

中国から日本へのインバウンドは、4年前=コロナ前の2019年1月は75万4000人だったが、4年後の今年1月は3万1000人。つまり4年前に比べると、マイナス95.1%だ。

福岡市港湾振興部によると、受け入れ手続の細かい規則が決まっていないという。中国人を大量に載せたクルーズ客船の博多寄港は見通せない。しかし、運航する船会社は以前のように、中国との間を往来したい思いがあるのは確かだろう。中国政府は今月、海外への団体旅行を一部解禁したが、解禁対象国20か国のうち、日本は含まれていない。

違和感がある「量から質への転換」

そういう中で、国土交通省は「海外の富裕層を取り込む」、また「滞在日数を増やす」などインバウンド政策の重点を、「量」から「質」へ転換する、と聞く。国交省のインバウンドのポイントは以下の三つだ。

①2年後の2025年にはインバウンドの総数を、過去最高を更新する。※過去最高はコロナ前の2019年の3188万人。

②インバウンドの人数のみに依存せず、質的向上を目指す。すなわち消費額アップや、地方での宿泊を増やす。

③②の消費額に関しては訪日客一人平均15万9000円(2019年)からアップさせ、平均20万円を目指す。

消費額が20万円になると、2019年に比べて26%の増になる。富裕層を獲得したいという思いがにじむ。実際、コロナ禍が収まってくるに従い、ホテルの稼働率が向上し、高級ブランド販売も好調のようだ。外国人旅行者の旅行支出は、コロナ前よりも増え、昨年10月から12月期の訪日外国人1人あたりの旅行支出は21万2000円。3か月間の平均とはいえ、政府目標をすでに超える額だ。

しかし「お金を落としてくれるインバウンド」は歓迎、富裕層にシフトする…。これでいいのだろうか。個人的には違和感を覚える。われわれの住む福岡、北部九州は独自にインバウンド政策を持つべきではないだろうか。

福岡でよく見かける韓国の若い世代は富裕層ではない。それに、中国人観光客が乗ったクルーズ船は朝、福岡に着いて夕方には出港する。宿泊代や豪華な夕食に、お金を落とすわけではない。

コロナ前、インバウンドの消費額は小さくなかった。2019年は全国で4兆8000億円、政府は年間5兆円を目標に掲げている。コロナが長引き、景気がなかなか上向かない中、岸田政権にとって重要だ。

しかし、インバウンドは、そんな経済浮揚のための、都合のいい“財布”としてみるだけでいいのだろうか。政府が打ち出したインバウンド政策には、そんな先走りを感じる。

福岡市の場合、「アジアの玄関口」「アジアのリーダー都市」を目指してきた。北九州市も戦前、定期航路を持っていた中国・大連との間で、姉妹都市提携を結ぶ。「一人でも多くの外国人観光客に、福岡県に来てもらう」。まず、そのことが最優先ではないか。親日的な国や地域からの観光客だけではなく、福岡を、福岡に住む私たちを見てもらう、接してもらう――。なにより大切だと思う。

さらに、福岡県内に滞在中に感じたイメージを、自分の国に帰ったあとに、周囲に紹介してもらう。私達のマナーや所作は彼らの目にどのように映るか。より多くの人に来てもらい、帰国後は口づてでも、SNSでも発信してもらう。

外国人が落とすおカネばかり、お行儀のいい富裕層ばかりに目が行けば、外国人観光客もそんな我々の姿を見透かすはず。より多くの外国人に接することで、私たちも彼らから多くのことを学ぶはずだ。私たち一人ひとりも、日本の外交を担っている――。「アジアの玄関口」を自任する福岡に住む私たちは、そんな気概で外国人を迎えてみたい。

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◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

田畑竜介 Grooooow Up

放送局:RKBラジオ

放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分

出演者:田畑竜介、田中みずき、飯田和郎

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