映画「零落」主演・斎藤工&主題歌を担当した志磨遼平がトークショー。同い年の2人は似ている!?

漫画家・浅野いにお⽒による新境地にして衝撃の問題作を原作にした映画「零落」(3⽉17⽇公開)の⼀般試写会が⾏われ、主演の斎藤工と主題歌「ドレミ」を書き下ろしたドレスコーズ・志磨遼平がトークショーに参加した。

浅野氏による原作漫画「零落」は、多忙なミドルエイジ男性なら一度は経験する孤独な空虚感と、極限状態にある漫画家のリアルな“業”に真っ向から挑んだ意欲作。この原作にほれ込んだ竹中直人が、デビュー作「無能の⼈」(1991年)から10作品⽬となる監督作品として映画化した。斎藤は、人気漫画家の型にはまることを断固拒否するストイックな主人公・深澤薫を演じ、深澤の人生に大きな影響を与える“猫のような目をした”風俗嬢・ちふゆに趣里が扮(ふん)する。

イベント登壇後、斎藤が「野球、気になりませんか? 僕もギリギリまで見てたんですけど結構強かったですよ、日本」と、この日「日本×中国」の試合が行われた「2023 WORLD BASEBALL CLASSIC」の戦況を伝えることからトークショーがスタート。作品について、志磨が「原作もそうだけど、手放しで『ああ面白かった』という映画でもなくて、すごくズシーンと後を引く映画。(会場の)皆さんがぐったりされている感じが物語っていますけど(笑)」 と映画を見終わったばかりの観客を見ながら感想を話すと、斎藤は「内臓に響く、ホルモンシネマです。ホルモン焼き映画…それはさすがに違うか」と言って笑わせた。

斎藤は続けて、「原作自体、自分の深淵を見るというか、そういう感覚があったので、大好きな作品に参加するにあたって、自分が背負うべき十字架的なものは大きいなと思いながら日々撮影に挑んだ」と振り返り、「“回復をしない”をテーマに過ごしていた。⽇々リセットされてチャージしないことが唯⼀、本作に対する向き合い⽅だと思って。完成した作品を⾒て、⾃分がまさにその状態だったので『ちゃんと回復してねえな』と思えた」と⼿応えを明かした。

作品では人間の“業”が描かれるが、志磨は「僕らがやっていることは、みっともなければみっともないだけ喜ばれる仕事。ライブをやっていただくお⾦は“みっともない代”だと思っている。深澤だって漫画を辞めればいいだけの話なのに、それをせず⼈を傷つけている。それは表現者の“業”なのだと思う」と鋭く分析。すると斎藤は「僕は⾃分のターニグポイントになった『昼顔〜平⽇午後3時の恋⼈たち〜』(2014年/フジテレビ系)で、不貞という絶対に⼈には⾒せない部分を映像で表現して⼈⽬にさらすことで報酬をいただいているということを実感した」と志磨の言葉に共感。さらに、「内臓というか、みっともない部分に皆さんが心当たりを感じた時、その世界に没入するきっかけになるんだと原作に(対して)感じていたので、引きずり込まれた。長く仕事をしていたら予測できることもあって、すべてが初めてで先が見えない時とは違うんですよね。深澤も見えすぎている苦悩がある。自分の今の年齢になったからこそ響くものがあった」と力を込めた。

また、原作の魅力について、志磨は「⽂学的であり、まるで私⼩説に近い漫画家漫画。セリフのないようなところの漫画表現がものすごくて、⾏間を読ませるような⼒がある」と絶賛。斎藤は、浅野氏がつげ義春氏の「ねじ式」に衝撃を受けて漫画家になったという裏話を紹介しながら、「⽵中監督のデビュー作もつげ義春さん原作の『無能の⼈』で、『零落』とは親⼦関係にあるような気がする。原作を初めて読んだ時に、僕は“え!?”と思った。普段、⾒落としがちな影の部分に美を描くつげさん同様、浅野先生も漫画を描くことで浄化する向き合い⽅をしていると思った」と共通点を見いだし、「映画監督が自分の原体験や幼少期のことを自分のクリエーター人生のまとめとして描き出すことは近年あるが、浅野先生が『零落』を描いたタイミングがすごい。ここで一つの決着をつけて次に向かうために毒を出すというのが『零落』だったと思う」と感服した。

劇中では、志磨は深澤にインタビューするデリカシーのない記者・くぅ〜太郎としても出演。斎藤は「くぅ〜太郎の悪気のない⾔い⽅によって、深澤の傷や痛みの輪郭がクリアになる。志磨さんの⾔葉が悪意なくブッ刺してくる細い針のようで、精神的にきつかった…」と伝えると、志磨は「そのように思ってもらえたならばよかったです」とホッとした様子で、「(竹中監督が)“こういう人、むかつくよね”という演出を付けてくださる」と監督の的確な演出に感謝した。

観客とのQ&Aも行われ、お互いの印象について、⽑⽪のマリーズ時代から志磨のファンだという斎藤は「それこそ下北沢の⼩さなライブハウス時代から追いかけていた⼈なので、今回の融合はご褒美です。同い年ではあるけれど、これからも追いかけていくべきクリエーターのお⼀⼈。これからも思いを募らせていきます」とラブコール。対して志磨は「僕はあまのじゃくな性格。そんな僕に共感するという⽅は、僕と同じようなところがあると思う。斎藤さんは華々しい世界にいる⼈だと思っていたけれど、こうやってお話を聞いていると、“だから僕の曲を聴いてくれていたのか!”と分かります」と納得し、「ひねくれたところがおありですね?(笑)。なんだか僕はホッとしてうれしいです」と喜んだ。

劇場公開に向けて、志磨は「初めて映画の劇中⾳楽を作ったので、個⼈的に⼀⽣忘れられない映画になりました。そんな作品が公開になることを光栄に思っています。皆さんも折に触れて見返したり、周りの⼈に勧めてくれたらうれしいです」と訴え、斎藤も「内臓に落とし込まれた『零落』をしっかりとそしゃくして、この作品が皆さんの内側にどう響いたのか、それを⾔葉や⽂字にしてほしいです。僕はGoogle社を超える絶対的な謎のサーチ能⼒を使って皆さんの感想を⾒つけますので、ぜひ⾔葉にして表現してください」と締めくくった。

最後、フォトセッションでは、斎藤と志磨自らが、ポスターが奇麗に写りやすいよう角度を調節するなど対応。Q&Aコーナーでも、観客にマイクが渡っていないことに気が付いた斎藤が、すぐに自らのマイクをスタッフに渡し、志磨と2人で一つのマイクをシェアするなど和気あいあいと進行し、イベント終了時には斎藤がポスターを持って引き上げるなど、アットホームな雰囲気のまま終了した。

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