春宵の有隣荘特別公開「一期一景」~ 2023年3月12日まで。特別な空間で春あかりを眺めるイベント

倉敷美観地区を巡っていると、緑の瓦とオレンジ色の壁の建物が白壁の町に現れます。

実業家 大原家の旧別邸の「有隣荘(ゆうりんそう)」です。

ふだんは非公開の建物ですが、特別に夜間に開館されています。

特別な空間から景色を楽しむ、春宵の有隣荘特別公開「一期一景(いちごいっけい)」に行ってきました。

有隣荘とは

有隣荘が建設されたのは1928年(昭和3年)。

大原美術館を設立した大原家 七代目当主の大原孫三郎おおはら まごさぶろう)が病弱だった妻のために建設しました。

大原美術館の本館5棟分の費用をかけて作られた大邸宅です。

興味深い特徴は「和洋中」三つの意匠を取り入れた建物であること。

普段の有隣荘

大原家の別邸として計画されていましたが、天皇家や宮家など貴賓を迎える「迎賓館」としての機能も併せ持っています。

そのため建物1階にある居間(娯楽室)は大人数が入れるほどの十分なスペースがあり、天井が高い造りです。

有隣荘の建物に関しては、過去に詳しく取り上げているので、そちらを読んでくださいね。

春宵の有隣荘特別公開「一期一景」の概要

ふだんは非公開の有隣荘ですが、年に2回、春と秋の特別展の時に公開しています。

建物内に入るには、貴重な公開期間に行きましょう。

2022年8月には倉敷美観地区一帯で開催されたイベント「ハートランド倉敷」に合わせて、初めて夜間に特別公開がされました。

そのときの反響を受けて、倉敷春宵あかりの協力イベントとして、夜の特別公開「一期一景」が開催されることに。

一期一景に限って、邸内の撮影ができますが、以下の行為は禁止されています。

  • 三脚の持ち込みや使用
  • 個人的かつ非商業的な目的以外で、著作権の保護期間中の展示作品を撮影
  • 上記作品をSNSで投稿する

つまり手持ちカメラで、作品以外なら撮って、SNSの投稿もできます。

著作権の保護期間中の作品には注意書きがあります

イベントのポイントは三つです。

それぞれ紹介します。

有隣荘邸内からの眺め

ふだん非公開の建物に入るだけで特別感がありますが、そこからの眺めも入場したひとの特権です。

邸内からは斜め向かいの大原美術館が見えました。

中庭ではLEDキャンドルのライトアップも。

明るいときに撮りました

▼大原美術館側の中庭

二階からの眺めも格別です。

高い建物が少ない倉敷美観地区では、上から倉敷川沿いの町並みを見下ろせるのはかなり限られています。

有隣荘に入らないと見られない、貴重な景色ですね。

ウェルカムドリンク

入場者にはひとり一杯のウェルカムドリンクが付いています。

提供してくれるのは倉敷酒商いときちです。

総社市でワインショップ、倉敷市ではショップとバーでナチュレワインを扱っています。

アルコールはオーガニック白ワイン、ノンアルコールにオーガニック葡萄ジュース、ホットジャスミンティーがありました。

ドリンクの受け取りは中国風の造りの食堂で。

▼中国らしさを感じる窓の装飾

受け取り口のすき間からは、窯や味のある食器棚がのぞき見えました。

筆者はオーガニック葡萄ジュースを注文。

取材日は新見市のdomaine tetta(ドメーヌテッタ)の葡萄ジュースでした。

にごりと少しとろみがあり、華やかな香りのする一杯。

大原美術館に乾杯

大原美術館を眺めながら味わって飲みました。

SPレコードの優雅な音楽

有隣荘が迎賓館の役目を担っていた、当時の雰囲気を演出する場面も。

洋間では、大原家寄贈のSPレコードの音楽が流れました。

SPレコードとは、1880年代頃から1950年代頃までに流通した78回転の蓄音機用レコードです。

プラスチック盤に、音楽を刻み込んで製造されます。

音楽を流すために、ハンドルを回して回転をかけていました。

使っているのは、ピクニック用のポータブルレコードプレイヤーなのだそうです。

シューマンの《詩人の恋》が披露されました。

現在のクリアな音質とはまったく違い、少しこもった音がします。

ときおり、ザーザーとノイズが入るのも歴史を感じました。

丸く柔らかで、心地良い歌声に耳を傾けながらドリンクと部屋から見える景色を楽しみました。

倉敷春宵あかりと楽しんで

有隣荘の2階からちらりと見えた、川沿いに並べられている和傘あかり。

有隣荘を楽しんだあとは、倉敷春宵あかりの鑑賞もおすすめです。

夜の寒さも少し和らいできた春の夜を彩るイベントです。

目玉となる和傘あかりは有隣荘の目の前で展示されています。

さまざまなあかりが美観地区を彩ります

年に一回、春にしか見られない風景です。

おわりに

年に限られた期間しか公開されない有隣荘。

とくに夜の一般公開は、今回を含めまだ二回目と、とても貴重な機会です。

筆者はこれまで日中に有隣荘を訪れたことがありましたが、夜は初めてでした。

歴史ある建物でSPレコードを聴くと、昔にタイムスリップした気持ちに。

ドリンク片手に談笑しているひとびとを眺めていると、かつては迎賓館として使われていたのだと簡単に想像できました。

有隣荘に入らないと体験できない、五感で楽しめる特別なイベントでした。

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