低投票率と無投票は海外でも問題に。統一地方選挙はどうなる?(原口和徳)

総務省によると、4月の統一地方選挙では9件の知事選挙を含む981件の選挙が実施される予定です。統一率は27.43%と、地方自治体に関する選挙の1/4以上が同時期に行われます。

統一地方選挙は自分たちが暮らすまちの未来を考える機会となりますが、近年課題となっているのが低投票率と候補者の不足です。

投票率は低下し、無投票も増加。道府県議選の約4割が無投票

明るい選挙推進協会によれば、過去20年間で統一地方選挙における都道府県議会議員選挙の投票率は12.7%、市区町村議会議員選挙の投票率は15.2%減少しています。

また、前回統一地方選挙では、41道府県の議会議員選挙が927選挙区において行われ、そのうち362選挙区(39.1%)で無投票当選となっています。選挙区数ではなく、当選者数で計算すると、当選した道府県議会議員うち26.9%の人が無投票で当選したことになります。この無投票当選者の割合も20年間で10.1%上昇しています。

ほかにも、候補者が定員数に満たない定員割れの議会も8つの町村で生じるなど、議員のなり手不足も頻繁に報じられています。

日本では、選挙に参加する有権者、政治家ともに減少が進んでいますが、海外ではどうなっているのでしょうか。

海外でも地方自治体の選挙の投票率は国政選挙よりも低い

2016年にポートランド州立大学が全米50都市を対象に行った調査では、ワシントンD.C.やロサンゼルス、ニューヨークなど26都市の市長選挙で投票率が20%以下であったことが報告されています。

アメリカ大統領選挙での投票率は、55.7%(2016年)、62.8%(2020年)でしたので、地方自治体の選挙になると投票率が大幅に低下していることがわかります。

図表1_アメリカとイギリスにおける地方自治体選挙の投票率

18歳選挙権の導入にあたり、シティズンシップ教育などが盛んに紹介されたイギリスの直近の国政選挙の投票率は67.3%(2019年)でしたが、地方自治体の選挙の投票率は33.6%(2022年。図表で取り上げている単一自治体議会は32.1%)となっています。イギリスの地方自治体選挙の投票率は、国政選挙と同日に行われた年は60%を越えていますが、地方自治体単独で行われる場合はのきなみ30%台となっています。

ほかにも、罰則付き投票制度で知られるオーストラリアの国政選挙の投票率89.8%(2022年)に対し、投票義務のない市議会議員選挙、例えばアデレード市議会議員選挙30.6%(2016年)となっています。また、西オーストラリア州での投票率(2021年)も30.2%となっています。

インターネット投票で有名なエストニアでも、国政選挙63.7%(2019年)、地方選挙54.77%(2021年)となっています。

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無投票当選は他国でも生じているが、日本の水準は他国よりも高い

無投票当選も各国で生じています。

アメリカでは2020年に47州で州議会議員選挙が行われましたが、27%の選挙区が無投票となっています。

年によって異なりますが、イギリスでは、近年、地方議会選挙において0%~6%の間で無投票当選が生じています。例えば、2019年の地方議会選挙では選挙対象となった議席の内2%が無投票になったとされています。

ニュージーランドでは、2022年の地方選挙において20%が無投票となっています。また、14の欠員も生じています。

例外的に、日本と同程度に高い無投票率を記録しているのがカナダのケベック州の事例です。ケベック州では、2017年の地方選挙において選出された市長と市議会議員のうち55.4%が無投票となり、投票率は47%と総選挙(2015年) 68%を大きく下回ったことが報じられています。

なお、ケベック州は日本の事例(道府県議選で無投票率39.6%)とは異なり、市区町村に相当する基礎自治体を対象にした情報であること、近年、無投票となる自治体の数が減少傾向にあることも留意する必要があります。

日本で進む「地方議会議員になるための環境整備」は無投票を減らせるか

無投票当選には、有権者から自らの代理人となる政治家を選ぶ権利を奪ってしまう側面があります。結果として有権者のもつ政府(自治体)への信頼や政治への参加意欲を低下させたり、政府(自治体)が新しい価値観やそれに基づく政策を実行する可能性を低下させてしまう恐れがあります。

そのような中で、議員のなり手を増やすために注目されているのが、女性や若者の活躍です。

国連女性機関(UN Women)がまとめた報告書では、133の国、地域の地方議会における女性議員の割合を比較しています。

各国の数値と、前回統一地方選挙が行われた後の日本の女性地方議会議員の割合を比較してみると日本(14.31%)は105番目に位置します。

前々回の統一地方選挙後の水準(12.44%、112番目相当)に比較すると改善していますが、他国に比べると改善の余地が大きい状況です。

図表2_地方議会における女性議員の割合、統一地方選年代別当選者割合

年齢別の観点にも着目してみます。

当選者に占める20代、30代の割合は、道府県議で8.03%、政令指定市議で10.7%ですが、町村議では2.74%まで低下しているように、総じて若い世代の議員の数は他の世代よりも少なく、議会の年齢構成に偏りがあることがわかります。

今回の統一地方選挙に向けて、地方議員のなり手不足に関する提言や、票ハラスメントの可視化、啓発など、これまであまり地方政治に参加することのできなかった立場の人が参加するための環境整備が進められています。

私たちが暮らす社会には、性別や年齢以外にも、職業や居住地域など、様々な属性が存在しています。また、性別や年齢が近しいからと言って、その政治家が有権者の心情をすべて汲み取り、代弁できるわけでもありません。けれども、あまりに偏りが大きすぎると、本来気づかれるべき社会的課題が見過ごされたり、過少に評価されることがありえます。

地方議会議員になるための環境整備がすすめられた結果、統一地方選挙において選挙戦となる選挙が増加したり、議員構成や議会の活動に変化が生じることになるのかが注目されます。

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