【連載コラム】第3回:プホルス?プーホルス?プーホールズ? いつも頭を悩ませる選手名のカナ表記

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MLBの2023年レギュラーシーズンの開幕が約2週間後に迫っています。データサイト「ベースボール・リファレンス」によると、2021年は265人、昨季は303人の選手がメジャーデビュー。おそらく今季も300人前後の選手が新しくMLBの舞台に登場することになるでしょう。

日々MLBのニュースを配信する立場の人間として、いつも頭を悩ませているのが選手名のカナ表記です。実際の発音に100%忠実なカナ表記というものはおそらく存在しないでしょう。どんな表記でも正解ではなく、逆に間違いとも言えないのです。極論を言ってしまえば、そのカナ表記がどの選手を指すのかさえわかれば、どんな表記でも正解と言えるのではないでしょうか。

私が編集長を務めるMLB.jpでは、球団発行のメディアガイドや「ベースボール・リファレンス」などに記載されている発音表記を重視しつつ、実際の試合中継での実況アナウンサーの発音も聞きながら、できるだけ違和感の少ないカナ表記を心がけています。そのカナ表記から英語のスペルが推測できると「なお良し」といった感じです。

メディアごとの表記揺れで有名なのは、昨季限りで引退したAlbert Pujols、ヤンキースのDJ LeMahieu、かつてヤンキースなどで活躍したMark Teixeiraあたりでしょうか。「ベースボール・リファレンス」の発音表記では、それぞれアルバート・プーホルス(POO-hulse)、DJ・レメイヒュー(leh-MAY-hyoo)、マーク・タシェアラ(Tuh-SHARE-uh)となっています。MLB.jpでは日本で馴染みのあるカナ表記とのバランスを考慮しつつ、アルバート・プホルス、DJ・ラメイヒュー、マーク・テシェイラという表記を採用しています。

英語読みをするか、スペイン語読みをするか、というのも難しい問題です。たとえば、マルティネスというカナ表記はMartinezをスペイン語読みしたものです。一方、クルーズというカナ表記はCruzを英語読みしたものです(スペイン語読みするとクルス)。同じスペイン語圏出身の選手でも英語読みとスペイン語読みが混在してしまっているのが実情です。ただ、スペイン語圏出身だからといって、すべてをスペイン語読みしてしまうと、違和感のあるカナ表記が多発します。実際、ネルソン・クルーズがネルソン・クルスと書かれていると、違和感がありますよね。アメリカ出身のOrtizはオーティズ、中南米出身のOrtizはオルティスと区別したりすることもありますが、なるべく違和感の少ないものを採用するようにしています。

来日してNPBでプレーした選手については、なるべくNPBでの登録名に従いたいと思っていますが、なかには元広島のブレイシアのように無理のある登録名もあります。「ベースボール・リファレンス」の発音表記でライアン・ブレイジャー(BRAY-zhur)となっているように、Brasierをブレイシアと読むのは流石に無理があります。逆に、メッツのStarling Marteは「ベースボール・リファレンス」でスターリング・マーテイ(MAR-tay)となっていますが、元阪神のマルテに合わせて、スペイン語読みのマルテで統一しました。

スポーツ紙のネットニュースなどで、ときどき明らかにおかしなカナ表記が使われていることがありますが、これは通信社が定める統一表記をそのまま使用していることが理由だと思われます。その統一表記が違和感のないものになるのが理想ですが、なかなか難しそうです。

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