高橋幸宏と鮎川誠の出会い!ロックバンドとしてのイエロー・マジック・オーケストラ  今こそ聴きなおすとき。鮎川誠がYMOにもたらしたテイスト

YMOがカバーしたビートルズ「デイ・トリッパー」

今から44年前―― 1979年9月にリリースされたイエロー・マジック・オーケストラのセカンドアルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』。

世界のサカモト教授がピンク・レディーのヒット曲を解析して作った「テクノポリス」とか、クロサワ映画のサウンドトラックを想定して制作された「ライディーン」とか、マイケル・ジャクソンの『スリラー』に収録されるかもしれなかった「ビハインド・ザ・マスク」とか――

派手めのナンバーについてよりも、敢えて唯一のカバー曲であるビートルズの「デイ・トリッパー」に着目してみたい。

これ、ディーヴォがカバーしたローリング・ストーンズの「サティスファクション」に呼応する形で選曲されたのは明らかであり、従ってゲストギタリストには渡辺香津美ではなく、大村憲司でもなく、鮎川誠が呼ばれている(のちにシーナ&ロケッツのアルバムでは「サティスファクション」をカバー)。

鮎川誠の起用は、高橋幸宏との出会いに起因する――。

高橋幸宏、鮎川誠との運命の出会い

75年、鮎川はサンハウスでアルバム『有頂天』をメジャーからリリース。

一方、幸宏は加藤和彦率いるサディスティック・ミカ・バンドでロキシー・ミュージックとのツアーで全英を周り、その模様は『ライブ・イン・ロンドン』に収められた。

78年、エルヴィス・コステロの前座でデビューしたシーナ&ロケッツのステージを客席から観ていた幸宏は、パンク / ニューウェーブ華やかなりし当時、「どのバンドもカッコ良かった」「全員とやってみたかった」と回想しているが、一方で鮎川については、「そのルックスと存在感は抜きん出ていた」と述べている。

二人の出会いはまさに、サンハウス・ミーツ・ミカ・バンド、格好良くならない訳がない。

鮎川誠とテクノロジーの関係性とは?

さて、国内でも指折りのストーンズフリークである鮎川誠とテクノロジーの関係性を考えてみた時、想起する3冊の本が手元にある。

まずは、1992年に発売された、鮎川と作家・山川健一との共著『ローリング・ストーンズが大好きな僕たち』。

そしてMacフリークを自認する山川健一がデッドヘッズ(グレイトフル・デッドの熱狂的なファンの総称)であるスティーブ・ジョブズらが自宅のガレージから作り上げた夢のマシンであるマッキントッシュを核に、アップル社の興亡をなぞりながら、来たるネット社会への警鐘を鳴らした『マッキントッシュ・ハイ』。

さらに、その山川と半ば張り合う格好で、マイクロソフト Windowsと格闘しながら独力でホームページを立ち上げていく記録がリアルタイムでスリリングに記された鮎川の『DOS/Vブルース』。

この3冊の関係性において、何が面白いかと言えば、筋金入りのブルース、ロック好きの彼らが『ローリング・ストーンズが大好きな~』に収録された平成元年前後の対談では、70年代に流れてしまった曰く付きのストーンズ・ジャパンツアーが遂に実現する!という話題で持ち切りだったのに対し、5年も経たないうちにインターネットの荒波に取る物も取り敢えず飛び込み、熱中していく姿だ。

つまり、バンドマンとしての鮎川の嗅覚の前では、アナログかデジタルかは単にツールの問題でしかなく、興味があるのは自分を、そして聴衆をエキサイトさせてくれる現象なのだ。テクノとの邂逅も決してその域を出るものではない。

「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」に見るロックバンド “YMO”

元々イエロー・マジック・オーケストラは、はっぴいえんど解散後 “シンガーソングライター” “田舎” “ニューオリンズ” “トロピカル” と、その都度コンセプトを発展させつつソロ作品をリリースしてきた細野晴臣のひとつの帰結として、マーティン・デニーの「ファイアー・クラッカー」をシンセサイザーでカバーしたシングルをアメリカでリリースし、400万枚を売り上げる!という発想でスタートしたプロジェクト。

一見、ロックとは遠く離れた場所から始まったかに見えるそのプロジェクトに、ギター1本でセッション出来てしまう鮎川の柔軟な感性が加わったことによって『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』が従来のロックファンの耳にも、1枚の刺激的で新しいロックンロール・レコードとして届く結果に繋がったのは想像に難くない。

ともすれば、コンピューターのイメージに眩まされつつあったロックバンドとしてのYMOの輪郭をも鮎川のギターが浮き彫りにしてしまったのではないだろうか。

※2019年9月25日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 公認心理師キンキー

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