【神奈川県内公示地価】茅ケ崎市内「ちょっとしたバブル」 コロナ禍で移住加速

海岸と住宅地が起伏なくつながる茅ケ崎市街

 新型コロナウイルス禍でリモートワークが普及し、住宅需要が高まっていた風光明媚(めいび)な神奈川県の湘南地域。22日に発表された公示地価で、とりわけ茅ケ崎市内の人気が裏付けられた。上昇率トップ10に急浮上したのは、JR辻堂駅(藤沢市)と茅ケ崎駅(茅ケ崎市)徒歩圏の5地点。砂混じりの住宅地を歩き、トレンドを探った。

 降り立った東海道線のホームに耳なじみの旋律が響く。「遠く遠く~」とハミングを誘うのは、サザンオールスターズの「希望の轍(わだち)」だ。ここは、茅ケ崎駅。リーダー桑田佳祐さんの出身地で、上下線の発車メロディーとして定着した。

 地価上昇が著しい海側の南口から上位地点を目指し、「雄三通り」を行く。「海 その愛」が代表曲の加山雄三さんにちなむ海岸までの一本道。不動産店に張り出された販売物件は「海まで徒歩○分」とうたう。この街は、海が基準だ。

 ファミリー層に相応な30坪ほどの新築一戸建ては6千万前後もざらだ。「ずいぶん高い」。工務店ハートフルホーム(同市)の山口秀明社長(54)も困惑していた。コロナ禍前の相場は4千万円台後半。リモートワークの普及で需要が集中し、建材の調達難が重なって高騰した。昨年は「ちょっとしたバブル」で、同社の販売戸数も3割ほど増えたという。

 不動産市況に詳しい東京カンテイ(東京都)によると、県内の新築一戸建ての平均価格はそれでも都内より1~2割ほど安く、価格差が郊外シフトを後押しした。総務省によると、昨年に都内から県内へ転入したのは9万2千人余りで、うち茅ケ崎市内は約2千人。市人口は2020年に減少に転じると推計されていたが、むしろ増え続けている。

 ビーチクルーザーが行き交い、カヤックやSUPが家々の軒先に並ぶ。駅から平路で15分。国道134号が見えてきた。目的地も近い。ここ、東海岸南3丁目の地価は7.5%上昇の4位。サザンが歌った「Pacific Hotel」は、バブル期まで近くに立っていた。

 松林を抜けると、潮騒が聞こえる。たどり着いたのは、茅ケ崎海岸。相模湾に浮かぶ烏帽子岩や江の島を遠望し、恋人が肩を寄せ合ったり、散歩中の子犬がうたた寝したり。それぞれが春めく昼下がりを楽しんでいた。

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