佐野元春の90年代がスタート「SWEET 16」は新しい時代に向けた決意表明!  6CD&Blu-rayをパッケージ!「SWEET16 30th Anniversary Edition」待望のリリース

佐野元春の90年代「Time Out!!」から「SWEET16」へ

佐野元春の90年代、そして来るべきミレニアムに向けた疾走は92年リリースの『SWEET16』から始まった。このアルバムを語るには、前作『Time Out!!』についても少し触れなければならない。

90年にリリースされた『Time Out!!』はある種、元春が世界を旅しながら駆け抜けた80年代の総括したアルバムであったように思う。

ニューヨークでのインスピレーションから結実した『VISITORS』から、UKソウルと接近した『Café Bohemia』。そしてこの流れから結実した傑作アルバム『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』。ロンドンとの密接なつながりはこの次にリリースされる『Time Out!!』でも健在なのだが、ここで見せる元春の表情はこれまでのアルバムと比べ、極めてパーソナルな方向に向かっていると感じた。

オープニング「ぼくは大人になった」にしても、当時の世の中の煌びやかさとは相反したアナログレコーディングならではの音質が醸し出すあたたかさの中、リアルタイムでの思考をゆっくりゆっくり引き出しているようだった。それは、達観とも取れる心情で『VISITORS』とも『Café Bohemia』とも全く違う質感だった。

そして、この『Time Out!!』に収録され、ファーストリカットされた「ジャスミンガール」では――

 西の空に陽がしずみ
 君を見つける
 それは自由へのサインさ

―― という一節がある。陽がしずむという状況と、“自由へのサイン” という元春らしい、未だ見ぬ荒野を指差すような情景は、これから何かが始まる予兆として僕は捉えた。そしてラストナンバー「空よりも高く」では、夏の嵐が近づいていると主人公が家路を急ぐ。そう、そこで80年代を駆け抜けた元春の長い旅路がいったん帰結したように思えた。

佐野元春、来るべき新たな時代への決意表明

そして、『SWEET16』のオープニングナンバー「ミスター・アウトサイド」は雷鳴の音から始まる。夏の嵐だ。元春本人もかつてインタビューで「空よりも高く」と「ミスター・アウトサイド」の主人公は同一人物だと語っていた。

「空よりも高く」で夏の嵐の中家路を急いだ男は、「ミスター・アウトサイド」でどこかへ連れ出して欲しいと懇願する。

―― つまり、この『SWEET16』こそが、来るべき新たな時代に向けての元春の決意表明だったと僕は思っている。

1曲目「ミスター・アウトサイド」2曲目「スウィート16」と聴き続けていくと、“世界” という言葉が何度も繰り返されていることがわかる。

 おおきなバラのブーケに包まれて  古い世界は回り続ける  (ミスター・アウトサイド)

 世界地図を広げて  行きたい場所に印をつけたら  すぐに出かけるぜ  (スウィート16)

そう!『Time Out!!』で一度帰路に着いた元春がふたたび世界を見据えての新たな旅立ちを示唆するような極めてポジティブなヴィジョンが明確にされた革新的なアルバムであることをアルバムの冒頭で体現していた。

新たな時代に向けて疾走できるエネルギーに満ち溢れた「スウィート16」

『SWEET16』というバック・トゥ・ルーツ的なアルバムタイトルはチャック・ベリーの「Sweet Little Sixteen」を想起させる。このアルバムでも十代でしか感じることのできないロックンロールのプリミティブな衝動を感じずにいられない。特に2曲目に収録されている表題曲は、この衝動を内包させながら、新たな時代に向けて疾走できるエネルギーに満ち溢れた最新型のロックンロールに仕上がっている。

しかし、そこには80年代の旅路で得たタフな知性、つまり「ヤングブラッズ」の中で歌われている “鋼鉄のようなWisdom” を忍ばせている。衝動に満ち溢れながらも、決して直情的なものではなく、これまでの元春のキャリアを通じて咀嚼され、ソリッドに、そして奥深く重厚だ。

また、「失くしてしまうことは悲しいことじゃない」と歌う「レインボー・イン・マイ・ソウル」には、『BACK TO THE STREET』などで感じた初期の前のめりに疾走しながらもがむしゃらに、たったひとつだけの真実を求めた姿を彷彿させもてくれる。しかしそこには、決して若さが美しさの象徴ではなく、時を経て旅を続けた今の自分こそが未来を見据えることができるというメッセージがあった。

硬質でダンサブルなナンバー「ポップチルドレン(最新マシンを手にした陽気な子供たち)」にしても「誰かが君のドアを叩いている」にしても、世紀末と言われた時代に向かうための心算ともいえる時代に即した音楽の力が漲っていた。

オノ・ヨーコ、ショーン・レノンが参加した「エイジアン・フラワーズ」では圧倒的なジョン・レノンへのリスペクトを感じる。当時の元春のあらゆるインスピレーションが時代を駆け抜けるという共通認識の上、統一感を持った1枚のアルバムとして成立していたのだ。

昨年の11月には、このアルバムがリリースされてから30周年のメモリアルを記念して、完全再現ライブが行われた。当時1年半に及ぶレコーディング期間を経てここに詰め込まれた熱量が、普遍的に今も有効であるということを証明した。

今回リリースされる『SWEET16 30th Anniversary Edition』では、リマスタリングを施した本作に加え、未発表テイクと5つ会場におけるライブ音源を収録した6枚のCD、そしてBlu-rayがパッケージされている。当時の熱量とアルバムの本質をあらゆる角度から多面的に体現することができるだろう。

カタリベ: 本田隆

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