進路選択の春に

 出発の春は、若者たちにとって進路選択の季節だ。ふっと考える。この春、自分の父や母と同じ職業に就いた人や、そのための新しい一歩を踏み出した人はどれぐらいいるだろう▲例えば、政治家たちの世襲には否定的な議論も多い。しかし、親の背中を見ながら子が育つこと、最も身近な場所で働く大人の姿を見ながら子どもたちの職業観が育まれていくこと自体は極めて自然なことだ▲何代か続く家業の跡を取る人には、はた目には分からない苦労や重圧があるのかもしれない。ただ、若者の流出が悩みの種である本県にとっては、とても幸福で、しかも、何だか心強い進路選びの形のようにも思える▲父さんみたいな○○になりたい、母さんみたいな○○に…と、もしも言われたら-。多少くすぐったくて照れくさくても、きっとその父や母は涙腺崩壊必至だ。あなたの子どもでよかった、と言ってもらったに等しい▲と、さまざまに想像を巡らせたのは「同じ仕事に就きたい」と長男に言われて、先が見えないからやめておけ、と告げた-という諫早湾干拓開門訴訟の原告漁業者の話を昨日読んだからだ。ただし、息子の決心を喜べない父の悲痛な胸中は想像に余る▲忘れずにいたい。司法判断のねじれが落ち着いただけで、諫干はまだ何も終わっていない。(智)

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