NASAがアルテミス2ミッションに参加する宇宙飛行士を発表 月周辺の有人飛行は半世紀ぶり

【▲ 「アルテミス2」ミッションに参加する4名のクルー。NASAのクリスティーナ・コック宇宙飛行士(左)、ビクター・グローバー宇宙飛行士(中央上)、リード・ワイズマン宇宙飛行士(中央下)。CSAのジェレミー・ハンセン宇宙飛行士(右)(Credit: Josh Valcarcel)】

【2023年4月4日13時05分】アメリカ航空宇宙局(NASA)は4月4日、有人月面探査計画「アルテミス(Artemis)」初の有人飛行となる「アルテミス2」ミッションに参加する4名のクルーを発表しました。

アルテミス計画は月面での持続的な探査活動や将来の有人火星探査を見据えた取り組みで、1960~70年代に実施された「アポロ計画」以来となる有人月面探査が予定されています。アルテミス計画における初の月面着陸は2025年に予定されている「アルテミス3」ミッションで、2名の宇宙飛行士が月の南極周辺に降り立ち、月に埋蔵されているとみられる水の氷の探査などを行います。

アルテミス3に先立ち、NASAはアルテミス計画で使用する新型宇宙船「オリオン(Orion、オライオン)」の無人飛行試験にあたる「アルテミス1」ミッションと、有人飛行試験にあたるアルテミス2ミッションを計画。アルテミス1は2022年11月から12月にかけて実施され、成功裏に完了しました。今回クルーが発表されたアルテミス2では月面着陸は行われませんが、4名は1972年12月の「アポロ17号」以来半世紀ぶりに月周辺を飛行する宇宙飛行士となります。

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【▲ ケネディ宇宙センター39B射点から打ち上げられた「アルテミス1」ミッションの「SLS(スペースローンチシステム)」初号機。2022年11月16日撮影(Credit: NASA/Bill Ingalls)】

アルテミス2のコマンダーはNASAのリード・ワイズマン(Reid Wiseman)宇宙飛行士です。ワイズマン飛行士は国際宇宙ステーション(ISS)の第40次/第41次長期滞在クルーの一員として、2014年5月から11月にかけてISSに滞在。通算および連続宇宙滞在時間は165日間です。また、2020年12月から2022年11月にかけて、ワイズマン飛行士はNASAの宇宙飛行士室長を務めました。

アルテミス2のパイロットはNASAのビクター・グローバー(Victor Glover)宇宙飛行士です。グローバー飛行士はNASAの有人飛行ミッション「Crew-1」の一員として、2020年11月から2021年5月にかけてISSに滞在。通算および連続宇宙滞在時間は168日間です。Crew-1は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の野口聡一宇宙飛行士(当時)も参加したミッションでした。

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アルテミス2のミッションスペシャリストはNASAのクリスティーナ・コック(Christina Hammock Koch)宇宙飛行士と、カナダ宇宙庁(CSA)のジェレミー・ハンセン(Jeremy Hansen)宇宙飛行士です。コック飛行士はISSの第59次/第60次/第61次長期滞在クルーの一員として、2019年3月から2020年2月にかけてISSに滞在。通算および連続宇宙滞在時間は328日間で、2023年4月4日現在、女性宇宙飛行士による連続宇宙滞在時間最長記録の記録保持者です。

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ハンセン飛行士はアルテミス2が初の宇宙飛行です。2009年にCSAの宇宙飛行士として選抜された後、NASAのジョンソン宇宙センターにあるミッションコントロールセンターでCAPCOM(通信担当)を担当した他に、NASAの宇宙飛行士養成クラスで指導を任された初のカナダ人として訓練の指導も行いました。カナダからの宇宙飛行士参加はNASAとCSAの合意にもとづくもので、カナダは月周回有人拠点「ゲートウェイ(Gateway)」に新型ロボットアーム「カナダアーム3」を提供します。

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【▲ 「アルテミス2」ミッションの概要図(Credit: NASA)】

アルテミス2は打ち上げから帰還までが約10日間のミッションです。まず、4名が搭乗したオリオン宇宙船はケネディ宇宙センターからNASAの大型ロケット「SLS(スペース・ローンチ・システム)」で打ち上げられ、1周約23.5時間の楕円軌道(約185×7万4000km)に投入されます(上図の1~5)。

SLSの上段(第2段)を切り離した後、オリオン宇宙船は一旦クルーによる手動操縦に切り替えられて、切り離し後のSLS上段をターゲットとした近傍運用の実証が実施されます(上図の6、および右端の枠内)。これは後のミッションで実施される月着陸船やゲートウェイとのランデブーやドッキングに備えての試験で、地上では得ることが難しい性能データの収集や運用の経験を得るために行われます。実証実施後のSLS上段は大気圏へ再突入して廃棄されます。

近傍運用の実証を終えたオリオン宇宙船は制御をミッションコントロールに戻し、地球を周回している間にクルーによるオリオン宇宙船の各種システムの検証が実施されます。主エンジンを噴射(TLI:Trans-Lunar Injection 、月遷移軌道投入。上図の9)して月へ向かう片道4日間の軌道に乗ったオリオン宇宙船は、「8の字型」の軌道を描きつつ月の裏側を高度約1万kmで通過(上図の11)した後に、大気圏へ再突入して地球に帰還します(上図の13~15)。

アルテミス2の完了後、NASAは毎年1回程度のペースで有人月面探査ミッションを行うことを計画しています。初期のミッションでは月面での探査活動確立やゲートウェイの建設に重点が置かれますが、その先は長期的・持続的な月面探査の実施が構想されており、得られた経験は将来の有人火星探査ミッションにも活かされることになります。将来の月および火星の有人探査に向けた一歩となるアルテミス2ミッションの実施は、2024年の予定です。

Source

  • Image Credit: NASA, Bill Ingalls, Josh Valcarcel
  • NASA \- NASA Names Astronauts to Next Moon Mission, First Crew Under Artemis
  • NASA \- Artemis II Crew
  • NASA \- NASA’s First Flight With Crew Important Step on Long-term Return to the Moon, Missions to Mars

文/sorae編集部

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