『ブレイキング・ザ・コード BREAKING THE CODE』開幕 愛と哀しみに満ちた天才の心と人生

コンピューターを発明した実在の男性、アラン・チューリングの物語が4月1日より開幕。イギリスの学者で、第二次世界大戦中、ナチスの暗号「エニグマ」を解読し、多くの命を救ったアラン・チューリング。近年では、映画『イミテーション・ゲーム』でベネディクト・カンバーバッチが演じ話題となった。
日本で33年ぶりの上演となる本作、気鋭の演出家、稲葉賀恵の手により今、演劇の真骨頂を。主演アラン・チューリングを演じるのは、亀田佳明。チューリングと関係を持つロン・ミラー役には水田航生。チューリングの同僚パット役に岡本玲。チューリングを戦時中の暗号解読に引き抜いた、ノックス役は加藤敬二。チューリングの初恋相手、少年クリストファー役には、若手俳優として頭角を表す田中亨。上層階級の官僚ジョン・スミス役に中村まこと。チューリングの母、サラ・チューリングには保坂知寿。そして、強盗事件の捜査に訪れる刑事ミック・ロス役には堀部圭亮

舞台上はシンプル。俳優陣が舞台に上がり、テーブルなどを所定の位置に置いて始まる。主人公のアラン・チューニングが登場する。そして刑事のミック・ロスがやってくる。空き巣に入られてしまった模様。取られたもの、大したことはなさそうだが、どこか様子がおかしい。

時系列通りに進行せずに時間はゆきつ戻りつ。少しずつであるが、アランの生活、活動、何者かが見えてくる。
アラン・チューリング、コンピューター、人工知能、しかし、彼は遥か昔に、すでにこういう時代が来ることを予見していた。そしてコンピューターを発明し、難解な暗号の解読もした、まさに天才と呼ばれるべき人物。そして彼を取り巻く人物たち。彼は同性愛者であった。その彼が関わった男たち、刹那的でありながらも、愛情を求める。母親であるサラは息子が天才であることを薄々気付いている様子であるが、普通の子供とはかなり違うアランを持て余し気味にも見え、基本的には子供を愛している。アランは初恋の少年が忘れられない。だから愛を求める、一瞬の快楽であっても、その奥底には孤独が滲み出る。

その一方で、時代が彼を求めていた。時は第二次世界大戦、イギリスはドイツ軍の潜水艦によりアメリカからの補給船を次々と破壊されて、危機に陥っていた。この潜水艦がエニグマと呼ばれる暗号で指示を受け、動いていることを知る。彼を引き抜いた人物、ノックス、古典文学者、暗号学者。

エニグマの解読に言語学からアプローチした古典文学者でパピルスに書かれた古代ギリシャ語を解読。イギリス軍からその手腕を買われ、30才から暗号解読一筋、暗号解読に数学者が重要であることに気づく。ブレッチリー・パーク、ここに各地の天才、鬼才が集まった。そのチームにアラン・チューリングが加わった。
天才であるが故の運命と彼の愛、彼を取り巻く人々。場面が変わる時にピアノとヴァイオリンの音が響く。抽象的かつ印象的なメロディー。

秘密を抱えているが故に、そして彼の生まれた時代、同性愛は罪とされていた。いや、現在でも罪とまではいかなくても生きにくい。その生きにくさと彼の持つ純粋さ、初恋の少年クリストファー、彼は病で亡くなった。アランはいう「クリストファーの心は身体がなくても存在できるのか」と。また「生きている人間の脳がなくても、心は生まれるのか」と。これが彼を突き動かす。
デリケートなアランを亀田佳明が繊細に演じる。チャラいように見えていて孤独を見せるロン演じる水田航生、アランに理解を示しつつ、アランに対しての複雑な、しかし温かい思いを持つ岡本玲演じるパット、アランを引き抜いたノックス、加藤敬二がほのかに見える自らの死期を悟る、落ちついた中にも寂寥感とほのかな愛を滲ませる演技を見せる。普通の感覚をもつアランの母・サラ、保坂知寿が後半、息子がカミングアウトする時の狼狽ぶりとそれでも息子を受け入れようとする姿勢、複雑な感情を吐露。芸達者が集まり、シアタートラムという濃密な空間で見せるドラマ、世間の道徳、倫理観ゆえに生きづらい、そして戦時中という状況、だが、そこには普遍的なテーマも見える。自分の心に忠実に生きようとした実在の人物。物語の前半で「白雪姫と7人の小人」を観たというアラン、最期のリンゴ、彼の答え。母・サラの言葉、「あの子には生きる目的がたくさんあったんです」という言葉には重みがある。

稲葉賀恵(演出)
この物語は数学理論を真ん中に置いてはおりますが、極めて私たちの近く、隣にいる人間たちのすれ違いやぶつかり、そして愛憎や悲哀を描いています。
約1ヶ月強、8人の尊敬する魅力的な俳優陣と、すぐそこに、近所にいるような親近感と愛くるしさを持った登場人物を作り上げるべく、コツコツ丁寧にお稽古してきました。
そして、信頼すべきスタッフプランナー陣と、チューリングの脳内を舞台上に出現すべく、時に子供のようにきゃっきゃ言いながら趣向を凝らして参りました。
何だかとても奇妙で、でもとても愛すべき世界になった気がいたします。

きっと観ていただけたら、チューリングをはじめとする歴史の中にいる登場人物が、年号から抜け出してすぐそこで手を差し出して話しかけてくるような、そんな感覚を覚えて頂けると思います。

トラムという宇宙のような空間で
天体のように近づいては離れる人間たちの模様を
一緒に浮遊しながら旅してみてください。
劇場でお待ちしております。

亀田佳明(アラン・チューリング 役)
本日はご来場頂きましたお客様に心より感謝を申し上げます。
稲葉賀恵さんの粘り強く丁寧な演出にスタッフキャストも一丸となり明るく闊達な稽古場でした。
劇中アラン・チューリングは常に舞台上にいながら、他の人物の登場によって時空が飛んでいきます。
堀部圭亮さん演じるロスの絶妙にグレーな人間味。
田中亨さん演じるクリスの清廉さとニコスの無邪気さ。
保坂知寿さん演じるサラの失望の先に見せる深い愛情。
水田航生さん演じるロンの秘められた痛みと滲む葛藤。
中村まことさん演じるスミスの特異な難攻不落。
加藤敬二さん演じるノックスの温かさの中にある哀しみ。
岡本玲さん演じるパットの夾雑物のない眼差しで生きようとする意志。(登場順)
次々に登場してくる共演者の方達と稽古を重ねていくうちに、自分は登場人物達の記憶の中の存在であり、その人物たちの記憶により再生されている存在のような不思議を感じました。
「心とは何か」「身体がなくても心は存在するのか」
チューリングは学術でこの問いを追究し続けました。
私にとっても心の問いは向き合い続けるテーマでもあります。

日々お客様と発見を重ねながら千秋楽を迎えたいと思います。
座組一同、心を込めて創った作品です。
1人でも多くの方に観ていただけたらと願っております。

あらすじ
第二次世界大戦後のイギリス。
エニグマと呼ばれる複雑難解なドイツの暗号を解読し、イギリスを勝利へ導いたアラン・チューリング。
しかし、誰も彼のその功績を知らない。
この任務は戦争が終わっても決して口にしてはならなかったのだ。

そしてもう一つ、彼には人に言えない秘密があった。
同性愛が犯罪として扱われる時代、彼は同性愛者だった。

ある日、空き巣被害にあったチューリングの自宅に一人の刑事がやってくる。
あらゆる秘密を抱え、孤独に生きるチューリングが人生の最後に出した答えとは。
実在した彼の生涯を、少年時代、第二次世界大戦中の国立暗号研究所勤務時代、そして戦後と各時代を交錯させながら描いていく。

概要
ブレイキング・ザ・コード BREAKING THE CODE
日程会場:2023年4月1日(土)〜4月23日(日) シアタートラム
作:ヒュー・ホワイトモア
翻訳:小田島創志
演出:稲葉賀恵
音楽:阿部海太郎
出演:亀田佳明、水田航生、岡本玲、加藤敬二、
田中亨、中村まこと、保坂知寿、堀部圭亮
スタッフ:美術・衣裳=山本貴愛 照明=吉本有輝子 音響=池田野歩 ヘアメイク=谷口ユリエ 演出助手=田丸一宏
舞台監督=川除 学/鈴木章友 宣伝美術=山下浩介 宣伝写真=杉能信介
宣伝ヘアメイク=高村マドカ 宣伝協力=吉田プロモーション プロデューサー=笹岡征矢
企画製作=ゴーチ・ブラザーズ
公式サイト:https://www.breakingthecode2023.com/
撮影:杉能信介

The post 『ブレイキング・ザ・コード BREAKING THE CODE』開幕 愛と哀しみに満ちた天才の心と人生 first appeared on シアターテイメントNEWS.

© 株式会社テイメント