日本初の宇宙ビジネスIPOとなったispaceのビジネスモデル

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月面への物資輸送を行うispaceが、2023年3月8日に上場承認され、4月12日に新規上場します。国内の宇宙ビジネスのIPO(新規株式公開)は今回が初めてです。

華々しい事業内容とは裏腹に、直近の資金調達時の時価総額から8割程度安い不本意なダウンラウンドIPOとなりました。公募価格254円の時価総額は192億円。官民ファンドINCJ(東京都千代田区)を含む数々のベンチャーキャピタルが出資していますが、オーバーアロットメント分を除く売出株数はゼロという異例の案件。上場後の株価の形成に注目が集まります。

ispaceはどのような成長戦略を描いているのでしょうか。この記事では以下の情報が得られます。

・ispaceの業績推移
・サービスの内容と月面輸送の価格

提供する3つのサービスの内容は?

ispaceは、ispace EUROPE S.A.(ルクセンブルク)、ispace technologies U.S., inc.(コロラド州)、ispace Japan(東京都中央区)を子会社として持つ会社。2010年9月に設立された合同会社ホワイトレーベルスペース・ジャパンが、2013年5月に社名変更して現在の形になりました。

ispace technologies U.S., inc.はもともとNASA Ames Research Park(カリフォルニア州)内にオフィスを設置していましたが、月着陸船の開発を行うためにコロラド州に移転しました。州内には、ispaceのプロジェクトを支えるロケット開発のSpace Exploration Technologies(SpaceX)の本拠地があります。

ispaceは2017年3月に月の資源開発に関する覚書をルクセンブルクと締結しており、それを機に設立されたのがispace EUROPE S.A.でした。

ispaceの創業者で代表取締役の袴田武史氏は、ジョージア工科大学大学院で航空宇宙工学修士号を取得後、コンサルティングファームに入社。2010年に9月に世界初の民間月面探査レースGoogle Lunar XPRIZEへの参加を目的として、ホワイトレーベルスペース・ジャパンを設立しました。2013年7月に日本唯一のチーム「HAKUTO」を率いてプロジェクトに参加しています。

ispaceは月着陸船(ランダー)と月面探査車(ローバー)を用いて、以下3つのサービスを提供します。

1.ペイロードサービス
2.データサービス
3.パートナーシップサービス

※新規上場申請のための有価証券報告書より

ペイロードサービスは月に顧客の荷物を輸送するもの。ispaceのランダーはSpaceX社のファルコン9ロケットより打ち上げられ、成層圏を超えた地球に近い場所まで運搬された後にロケットから放出。ランダーが燃料噴射で軌道制御を繰り返した後、月遷移軌道に入り、4か月をかけて月面に着陸します。

初の実証ミッションで輸送する荷物は12.43㎏。その内の10㎏はアラブ首長国連邦の政府宇宙機関であるMohammed Bin Rashid Space Centreとの間で月面探査ローバーの輸送、日本特殊陶業<5334>と固体電池の輸送に関する契約を締結しています。

2022年12月時点の価格設定としては、ランダーに搭載するペイロード価格として月面まで輸送する場合は1.5百万米ドル/kg、月周回軌道上まで輸送する場合は0.5百万米ドル/kg、ローバーに搭載するペイロード価格として、3.5百万米ドル/kgを基本価格としています。

データサービスは売上計上には至っていない構想段階のサービス。輸送を行う中で得たデータを研究開発に活用したいとい需要があるため、関連するデータを顧客の特定ニーズに合わせて販売するというものです。

パートナーシップサービスは、ispaceの活動を広告などのコンテンツとして利用する権利をパッケージとして販売するもの。Google Lunar XPRIZEにおいては、この領域で累計10億円の売上を計上しており、十分事業化の余地があるサービスです。


2023年4月に中期的な株価を占う一大イベントが発生

宇宙ベンチャーのispaceは、最先端技術で新薬開発に邁進するバイオベンチャーと近いところがあります。利益は出ておらず、売上高の実績値は数億円で推移しています。

※新規上場申請のための有価証券報告書より筆者作成

注目したいのが、2024年3月期の売上高を前期の9.3倍となる61億9,600万円と予想していること。ispaceは2023年4月に月面着陸を完了させ、電力供給を確立した上で運用能力を実証するという具体的なマイルストーンを設けています。このプロジェクトが12.43㎏の荷物を運ぶ実証ミッション。これが成功すれば輸送料を得て、売上高が急伸する見込みです。

ispaceは月面着陸に至るまでの各フェーズも投資家に公開しており、上場後の株価形成に何らかの影響を与えるのは間違いないでしょう。また、4月下旬の月面着陸が成功するかどうかは、中期的な株価を大きく左右すると考えられます。

■ispaceのマイルストーン

※新規上場申請のための有価証券報告書より

ispaceの上場による吸収額は63億円。調達した資金はランダー開発や打上代金の支払い、運転資金に充当するとしています。中型ロケットであるファルコン9は打上価格が機当たり67百万米ドル/1回。この金額でも業界内では安価と言われています。

ispaceは輸送プロジェクトを打上費用がかかるロケットに依存せざるを得ず、高額な研究開発費もかかります。黒字化には長い時間がかかるでしょう。上場後は時価総額を上げることが経営者にとっての至上命題となり、舵取りの難易度は増すものと予想できます。月面輸送プロジェクトの行方とともに、株価対策としてどのような手を打つのかに注目が集まります。

麦とホップ@ビールを飲む理由

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麦とホップ

しがないサラリーマンが30代で飲食店オーナーを目指しながら、日々精進するためのブログ「ビールを飲む理由」を書いています。サービス、飲食、フード、不動産にまつわる情報を書き込んでいます。飲食店、宿泊施設、民泊、結婚式場の経営者やオーナー、それを目指す人、サービス業に従事している人、就職を考えている人に有益な情報を届けるためのブログです。やがて、そうした人たちの交流の場になれば最高です。

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