<シリア北西部>震災と内戦に苦しむアフリンのクルド住民 (写真6枚・地図)

2月6日の大地震でアフリン北西ジンディレスは最も被害が大きかった町のひとつ。多くの住民が倒壊した建物の下敷きになり、犠牲となった。(2月9日・シリア北西部・ジンディレスで住民撮影)

2月6日の大地震でアフリン北西ジンディレスは最も被害が大きかった町のひとつ。多くの住民が倒壊した建物の下敷きになり、犠牲となった。(2月9日・シリア北西部・ジンディレスで住民撮影)

◆シリアで地震被害深刻だったジィンデリス

2月6日に起きたトルコ・シリア大地震。シリア北西部アフリン近郊のジンディレスは被害が大きかった町のひとつだ。アフリン周辺はもともとクルド人が多く暮らす地域だった。5年前のトルコ軍の侵攻後、トルコの支援を受けたシリア武装諸派がクルド系組織を追い出し、支配してきた。内戦で疲弊した地域を襲った地震。現地の状況についてネット電話で住民に聞いた。(玉本英子

ジンディレスでは、建物の倒壊、損壊で大きな被害が出た。被災した建物は町全体の8割におよぶと地元住民は話す。(2月9日・シリア北西部・ジンディレスで住民撮影)

◆瓦礫のなかで妻と子どもが息絶え

「地震で家が倒壊し、妻と子どもが亡くなった。絶望しかありません」
ジンディレスに住む30代のクルド人男性、モハメッドさんは涙声で話す。
「瓦礫の隙間から妻と子どもの叫び声が聞こえ、救助を求めたが誰も来てくれなかった。冬の凍えるような寒さのなか、かじかんだ自分の手で瓦礫を取り除こうとしたが、声は聞こえなくなり、息絶えました」

ジンディレスは地震の被害が甚大で、この町に援助物資が届けられるのではと推測した周辺地域の被災住民がやってきた。その多くは、内戦でアフリンに移住してきた国内避難民だったとモハメッドさんは言う。

震災で家を失った住民のために、支援団体がテントを供給したが、「国内避難民には配られたのに、私たちは後回しにされた」とモハメッドさんは憤る。家が倒壊した彼は、しばらく路上で寝泊まりし、ようやく100ドル払ってテントを購入した。

地震で大きな被害を受けたアフリン一帯は、もともとクルド人が多く暮らしてきた。トルコ軍とシリア反体制派がクルド主導組織を追い出して以降、アサド政権に追われたアラブ人が移住。(3月22日・シリア北西部・ジンディレスで住民撮影)

◆アフリンとりまく複雑な背景

国内避難民がアフリン一帯に移住したのには、内戦の複雑な背景がある。

私は内戦前からアフリンを幾度も取材してきた。もともとクルド人が多く、内戦後はクルド主導組織が統治。国境を接するトルコは、シリアのクルド主導組織をテロ組織とみなし、2018年にはトルコ軍が「テロ組織排除」の名目でアフリンに侵攻。トルコが後押しするシリア反体制諸派やイスラム武装組織が町を制圧した。イスラム過激派の支配を恐れ、15万人のクルド人が脱出したが、一部は逃れることができず、とどまった。

それに代わってこの地域に移住したのが、イドリブやダマスカス近郊の東グータからやってきたアラブ人の国内避難民だった。反体制派は、元の住民がクルド系組織に内通するのを警戒して厳しく監視し、拉致や拷問もあいついだ。
アサド政権に追われた反体制派が、こんどは別の地域で「支配者」となって住民を抑圧する構図となった。

クルドの新年ネウロズの日の前日に殺害されたクルド住民を追悼するデモ。「武装組織は出ていけ」と抗議した。背後に被災者用の白いテントが見える。(3月22日・シリア北西部・ジンディレスで住民撮影)

◆アフリン移住の市民記者「自分たちには他に行き場がない」

トルコ軍侵攻後にアフリンに移住したダマスカス出身の市民記者に、ネット電話で話を聞いた。

「元のクルド人が出て行ったところに、アラブ人の反体制派が入ってきたのは事実だ。ここを統治する武装組織に批判的なことを言えば、私たちは捕まる。クルド人に対し、申し訳ない気持ちもある。でもアサド政権に家族を殺された自分たちには他に行き場がない」と苦渋をにじませた。
彼は他の町へ避難したクルド人の家主にお金を払って住んでいると話す。だが勝手に家屋を奪った例がいくつもある。

ジンディレスには地震後、複数の機関が支援に入った。おもに国内避難民を支援してきた地元NGOや、トルコを拠点とする団体を通じてだ。だが内戦下のシリアでは、支援活動にも政治が影響する。クルド系団体であっても、アフリンの反体制派とは敵対関係にないイラク・クルド自治区のバルザニ慈善財団(BCF)は入域が認められ、アフリンの被災者全体と、クルド住民への支援を行っている。一方、シリアのクルド赤新月社の支援トラックは町に入ることはできなかった。「クルド赤新月社がシリアのクルド系組織と関係があるとみなされたのが理由だろう」と市民記者は話す。

射殺された4人の追悼に集まったクルド住民ら。遺体にクルド旗をまき、殺害に抗議した。(3月22日・シリア北西部・ジンディレスで住民撮影)

◆クルドの新年ネウロズで4人射殺

3月21日はクルド人の新年ネウロズにあたる。この日は、広場や路上で火を焚く習わしがある。今年、アフリンでは火を焚いたことを理由に4人のクルド人男性が、町を支配する武装組織のメンバーに射殺された。翌日、ジンディレスにクルド住民たち数百人が集まり、「自由を! 武装組織は立ち去れ」と抗議した。
被災した住民が、政治的な緊張にさらされている。

あちこちに検問所があり、携帯電話の写真やメッセージもチェックされる。突然の家宅捜索もある。私との通信も、毎回アプリの記録を一回ごとに削除してやりとりした。

◆「物資は被災者すべてに必要。ただ、政治背景や人権状況も知って」

ジンディレスに集まり、殺害された4人を追悼するクルド住民。道の脇には被災者の仮設テントが並ぶ。(3月22日・シリア北西部・ジンディレスで住民撮影)

ジンディレスでは近い将来、地震で破壊、損壊の被害を受けた家屋の建て直しなどの復興支援が始まるだろう。その過程で、援助物資や復興資金が武装組織にかすめ取られたり、クルド人の土地が国内避難民たちに奪われたりするのではないか、とモハメッドさんは強く懸念する。

「各国の様々な人道機関からの支援はありがたい。それは被災者すべてに分け隔てなく必要です。ただ、この地の人々が置かれた政治背景や人権状況が、どの機関にも知られていないのではないか。本当に弱い者は誰なのか。物資の行きわたる先まで見届けてほしい」
彼はそう訴えた。

地図:アフリン一帯は、アレッポ石鹸の原料オリーブの産地として知られる。内戦初期からクルド系組織が統治したが、2018年、トルコ軍が侵攻。トルコの支援を受けたシリア反体制諸派が支配。(地図作成:アジアプレス)

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