大田区とエプソン、CO2削減を目指すコピー用紙再生の取り組みとその効果

左から大野氏、森住氏

環境先進都市を目指す大田区は、温室効果ガス排出量の実質ゼロを実現するため、エプソンの乾式オフィス製紙機「PaperLab(ペーパーラボ)」を導入。区役所の庁舎内で使用済みの紙を再生し、名刺やポスターなどさまざまな物に活用している。今回、導入の背景や脱炭素に対する考え方、具体的な成果について、エプソン販売と共同で事例発表を行った。(市岡光子)

パネリスト
森住貢一・大田区 環境計画課 係長
大野裕寿・エプソン販売 PMD部(PaperLab) シニアスタッフ

工業地域や羽田空港を有しつつ、多摩川流域に多くの自然を残す大田区。産業や観光に力を入れながら、豊かな生活環境も維持していくため、「大田区環境ビジョン2050」を策定。温室効果ガス排出量(実質)、プラスチックごみ、食品ロス(実質)の「3つのゼロ」を実現するという先進的な目標を掲げている。

温室効果ガス排出量ゼロについては「大田区役所エコオフィス推進プラン」を作成し、まずは区役所内で率先的に取り組んでいる。その中で、コピー用紙の使用量を検証したところ、「区役所内で年間約397トン(2019年度)もの紙を使用していた事実が明らかになった」(森住氏)という。ちなみに397トンの紙は、A4サイズのコピー用紙に換算すると約9920万枚。重ねると高さは約8920メートルに達し、エベレストを優に超える。

それら大量の使用済みコピー用紙を削減するため、大田区はペーパーレスとデジタル化の推進に着手。しかし、デジタルに不慣れな方も多くいらっしゃることから、チラシや区報などを通じてあまねく情報を伝えなければならない区役所業務の性質上、紙は必要不可欠なコミュニケーションツールであり、コピー用紙の削減は「電気や水道の使用量削減と比べると、なかなか結果が出なかった」と森住氏は話す。

そこで導入したのが、エプソンの乾式オフィス製紙機「PaperLab」だ。PaperLabは水をほとんど使うことなく、使用済みの紙から再生紙を作り出すことができる画期的な機械だ。再生紙を購入するのと比べて輸送時のCO2排出量を抑えられ、環境負荷の低減効果が期待できる。このPaperLabの導入により、大田区は2017年から2021年までに累計105万枚以上の再生紙を配布し、約3トンのCO2排出削減(エプソン調べ※1※2)に成功したという。

※1 PaperLabのCO2計算(東京都市大学 伊坪研究室算出:2021)
※2 市販用紙のCO2計算日本製紙連合会2011年公表値に廃棄物燃料分および流通段階分を加算(東京都市大学 伊坪研究室算出:2016)

森住氏は、「実はPaperLabには大田区の工場が作った部品も使われている」と、ものづくりの町をさりげなくアピール。さらに紙をリサイクルする以上の導入効果があったことも明かした。具体的には以下の4つ。

1つ目が「区役所率先行動の見える化」。見学スペースにPaperLabを設置することで、大田区が脱炭素社会実現のために率先して取り組んでいることを市民にアピールできた。
2つ目が「再生紙を名刺やポスターなどに使用することによるPR効果」。庁舎内で再生した紙に専用のロゴマークを付与することで、再生紙を使った名刺やポスター、チラシなどが大田区の取り組みを知らしめるPRツールになった。
3つ目が「再生紙アップサイクル品の販売による区民満足度の向上」。PaperLabで再生した紙を使い、ノートやペーパークラフトなどのさまざまなグッズを作成・販売したところ、区民から好評の声が多く上がった。
そして4つ目が「子どもたちへの環境教育効果」。学校で使用した紙をPaperLabで再生する過程を見学してもらうことができれば、循環型社会の教育にもつながる。
なお、庁舎内の各部局では、コピー用紙購入量の削減につながり、区役所職員の意識改革という面でも有効とのことである。

最後に、エプソン販売の大野氏が、PaperLabの機能や脱炭素に向けた活用シーンを説明。大田区の詳細な事例紹介があったこともあり、会場の聴衆は興味深く聞き入っていた。

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