丸亀製麺がピザとギリシャ料理店の運営会社を買収したのはなぜか?

丸亀製麺武蔵小杉店

丸亀製麺を運営するトリドールホールディングス<3397>が、2023年4月5日にイギリスを拠点にピザやギリシャ料理店を展開するFulham Shore Plc(ロンドン)を子会社化すると発表しました。買い付け総額は151億3,000万円を予定しています。

トリドールは中期経営計画において、M&Aによる新たな業態獲得を目的として、1,000億円の予算枠を用意。ヨーロッパやアジア圏を中心に業態の拡充を行うとしていました。主力の丸亀製麺を出店するだけでなく、ローカライズされた飲食店をM&Aで傘下に収め、リスクを低減しつつ巧みに海外事業の強化を行っています。

この記事では以下の情報が得られます。

・丸亀製麺の業績推移
・M&Aで海外事業を強化する理由

コロナ禍でも本業は黒字を堅持

トリドールは2020年7月に投資ファンドCapdesia Group Limited(ロンドン)と合弁会社MARUGAME UDON (EUROPE) LIMITEDを設立し、丸亀製麺をヨーロッパ展開する足掛かりを築いていました。イギリスでは2021年7月に1号店、同年11月の2号店がオープンしています。

今回のM&Aは、Capdesia Group Limitedと共同でロンドン証券取引所に上場しているFulham社の株式を取得するというもの。トリドールは投資ファンドを海外展開の強力なパートナーに位置付けています。

Fulhamはピザ業態の直営店を71、ギリシャ料理の直営店を21展開しています。丸亀製麺の海外出店とは異なり、すでにローカライズされた店舗を取得する意味は大きいでしょう。

トリドールが大胆な海外展開を行える背景として、新型コロナウイルス感染拡大の影響が小さく、国内事業の戻りが早かったことが挙げられます。

トリドールは2021年3月期に73億3,600万円の営業損失を計上していますが、IFRSを採用しているため、この赤字は66億7,400万円の減損損失の影響を強く受けています。主力の丸亀製麺事業はコロナ禍でも利益を出していました。

※決算短信より筆者作成

この時期に利益率は2.9%まで落ち込むものの、2022年3月期には10%台を早くも回復。2023年3月期第3四半期の丸亀製麺事業の利益率は12.0%となっています。コロナ前の水準を取り戻すのは時間の問題でしょう。

トリドールは海外事業においても、利益を出していた稀有な会社です。コロナで行動制限が課された後、早い段階でテイクアウトとデリバリーを強化。収益性の悪化を食い止めました。

※決算短信より筆者作成

本業では利益が出ていたトリドール。営業損失は主に見かけ上の損失である、減損損失によるものでした。そこに時短協力などの助成金が入ります。2022年3月期は128億6,600万円を手にしました。トリドールは借入に頼ることなく、保有する現金が2021年3月末時点の250億円から、1年後に534億円へと跳ね上がります。コロナ禍を経てキャッシュリッチな企業へと変貌を遂げていたのです。

飲食業界全体でコロナの影響からは脱しつつあり、消費者は日常を取り戻しています。成長投資をするにはちょうど良いタイミングでした。


タイの丸亀製麺FC化が失敗に終わる

トリドールは2017年7月にアメリカの投資会社Hargett Hunter Capital Partners(ノースカロライナ州)に出資をするなど、欧米への事業強化を狙っていました。しかし、海外事業の売上高はアジア圏が大部分を占めています。稼ぎ頭は2018年1月に取得したJOINTED-HEART CATERING HOLDINGS(現:Tam Jai International)です。香港で人気の米線(ミーシェン)を使ったヌードルレストラン「タムジャイサムゴー」を運営しています。

トリドールはこの会社の株式を74.6%保有しています。Tam Jaiの2022年3月期の売上高は330億円。海外事業全体の同時期の売上高は410億円でした。Tam Jaiの収益貢献は絶大です。

丸亀製麺は2022年9月時点で海外に203店舗を展開しています。出店はFCを視野に入れていますが、トリドールは痛い目を見た過去があります。

2011年4月にタイの不動産開発大手Boutique Group of Companies(バンコク)とフランチャイズ契約を締結し、タイ国内での展開を計画しました。しかし、主体者が不動産事業者で飲食店運営のノウハウに欠けていたこともあり、黒字化ができませんでした。2013年にはトリドールが新株を引き受けて直接出資をし、経営に参画。それでも黒字転換はできませんでした。

トリドールは2022年3月末までにタイの店舗を全て閉鎖。2020年7月Boutique社に対し、貸金の元本及び利息並びに遅延損害金として5億3,500万円の支払いを求めてバンコク民事裁判所に提訴しています。

この反省を活かし、トリドールは出店を強化するエリアに「ローカルバディ」と呼ぶパートナーとの協力関係を構築します。欧州はCapdesia Group Limitedであり、北米はHargett Hunter Capital Partnersでした。

各地域で丸亀製麺のモデル店舗を直営形式で出店。成功パターンを構築して投資ファンドなどと共にFC化を推進します。どうしても時間がかかるのです。

トリドールは中期経営計画において、2028年3月期の業績目標を掲げています。丸亀製麺事業の売上高は2022年3月期の1.4倍となる1,300億円。海外事業は同2.4倍の1,000億円としています。海外事業に注力するのは明白です。

※決算説明資料より

すでに人気を獲得しているローカライズされた飲食店を買収した方が効率的なのはTam Jaiで証明済み。Fulham社を買収する背景にも、効率的かつ低リスクな方法での海外事業を強化する狙いがあるでしょう。その裏で欧州や北米エリアでの丸亀製麺の出店を地道に行うと考えられます。

麦とホップ@ビールを飲む理由

麦とホップ

しがないサラリーマンが30代で飲食店オーナーを目指しながら、日々精進するためのブログ「ビールを飲む理由」を書いています。サービス、飲食、フード、不動産にまつわる情報を書き込んでいます。飲食店、宿泊施設、民泊、結婚式場の経営者やオーナー、それを目指す人、サービス業に従事している人、就職を考えている人に有益な情報を届けるためのブログです。やがて、そうした人たちの交流の場になれば最高です。

© 株式会社ストライク