My Little Lover「Hello, Again」時を繋ぐ青山純のドラムと藤井謙二のギター  イントロマエストロ・藤田太郎の大好評連載、第5回は “マイラバ” のあの名曲!

90年代デビューアーティスト ヒット曲列伝vol.5

■ MY LITTLE LOVER「Hello, Again ~昔からある場所~」
作詞:小林武史
作曲:藤井謙二 & 小林武史
編曲:小林武史 & MY LITTLE LOVER
発売:1995年8月21日
売上枚数:184.9万枚

1990年〜1999年の10年間にデビューし、ヒットを生み出したアーティストの楽曲を当時の時代背景や、ムーブメントとなった事象を深堀しながら紹介していく連載の第5弾。今回は、MY LITTLE LOVER「Hello, Again 〜昔からある場所〜」を紹介します。

小林武史プロデュースの集大成、MY LITTLE LOVER

Mr.Childrenのプロデュースを手掛けていた小林武史は、1995年に新たなプロジェクトとして、国立音楽大学出身のボーカリストAKKOと、ギタリストの藤井謙二の2人組ユニット、MY LITTLE LOVERをプロデュースします。

小林武史はポップミュージックの概念を「凝縮感と中毒性をもっているのに、聴いていると何かと交信するような体験ができたり、それでいて多くの人に受け入れられるもの」と言語化し、MY LITTLE LOVERでは、その言葉の表現としてふさわしいかどうかを強く意識した楽曲制作を進めていきました。

ファーストシングル「Man & Woman」は91万枚のヒットを記録。続く「白いカイト」も51万枚と、デビューしてすぐセールスの結果が出たMY LITTLE LOVERは、デビューからまだ3か月しか経っていない1995年8月21日にサードシングルとして、「Hello, Again ~昔からある場所~」をリリース。瀬戸朝香主演の日本テレビ系ドラマ『終らない夏』の主題歌に起用されたこの曲は184万枚のミリオンヒットを記録します。

記録に残る90年代のスタンダードナンバーとなったこの曲は、プロデューサー小林武史のそれまでの経験と実績の集大成であり、この曲以降の、バンドアレンジで多くの大衆に向けたポップミュージックを制作する日本のアーティストに多大な影響を与えました。

その理由を、「Hello, Again 〜昔からある場所〜」を演奏したミュージシャンという切り口から紹介していきます。

青山純が叩くドラムから感じる、ノスタルジックな雰囲気の素晴らしさ

「Hello, Again 〜昔からある場所〜」でドラムを担当したのは青山純です。

重厚なリズムを刻むその演奏スタイルは、山下達郎や松任谷由実、杉真理など、現在も第一線で活躍するミュージシャンから支持され、多くのアーティストのレコーディングやバックバンドで活動されたドラマーです。2013年に肺血栓塞栓症で亡くなった際、山下達郎が自身のラジオ番組『サンデー・ソングブック』で、ドラマー青山純の業績を偲ぶ特集を放送したことからも、絶大な信頼を得ていたことがわかります。

1982年に杏里へ提供した「思いきりアメリカン」がヒットしたことがきっかけで、井上陽水、坂本龍一、高橋幸宏、大貫妙子など、当時ヒットチャートを賑わせていた多くのアーティストの楽曲やライブでキーボーディストとして参加。1987年には、桑田佳祐のソロシングルでアレンジとプロデュースを手掛けるなど、80年代に一流のポップミュージック制作現場を経験をしてきた小林武史が、90年代に自らプロデュースを手掛けて挑んだ「Hello, Again ~昔からある場所~」に青山純を指名したことは必然だったのかもしれません。

イントロから力強く、歌うように叩くドラムの音でノスタルジックな情景を思い浮かべるのは、私だけではないはずです。小林武史が目指した “何かと交信するような体験” がまさに体現されているのではないでしょうか。

ギタリスト、藤井謙二が考案したリフの凄さ

この曲でドラムと共に印象的なのは、イントロのギターリフです。作曲は、小林武史と藤井謙二の共作とクレジットされていますが、このリフを考えたのは、MY LITTLE LOVERのギタリスト、藤井謙二です。

小林武史は、ベストアルバム『singles』のライナーノーツでこのギターリフの誕生をこう語っています。

―― 最初、ギターの藤井謙二が作ってきた曲は難解で(笑)、でも、サビの転調とかは既にあって、クセはあるけど泣ける要素も感じて、そこから青春像というか、少年が慣れ親しんだ場所を離れる際の、痛みと希望へと広げていったのは覚えています。

イントロのギターを藤井に弾いてもらった時、彼がすごく生き生きとしていたんです。あのリフがそれ以降のマイラバのひとつの形になっていったと思います――。

過去の想い出と今を繋ぐノスタルジックな情景を描く青山純のドラムに、藤井謙二のギターが重なることで、リスナーひとりひとりがその情景に登場し物語が動き出しはじめます。この曲にポップミュージックが動き出す魔法をかけたのは、藤井謙二のギターリフといっても過言ではありません。

「昔からある場所」は、受け継がれていく

なぜ、「Hello, Again 〜昔からある場所〜」の素晴らしいリフを考案することが出来たのか? 藤井謙二は、MY LITTLE LOVERとして活動する前は、THE BARRETT(ザ・バレット)のギタリストでした。

THE BARRETTは、都内では知る人ぞ知るブルージーなロックンロールを奏でるバンドとしてメジャーデビューも果たすのですがヒット曲に恵まれず解散。解散後、渡辺美里のライブサポートメンバーとしてツアーに同行するのですが、西武球場で4万人の前でギターを弾きアンコールでビッグウェーブが起こるのを観た時に、衝撃が走ったそうです。

―― 新宿ロフトで2デイズやれれば最高! という気持ちで音楽やっていたけど、こういう音楽も悪くない――

この時に芽生えた、自分のアイデアでどれだけ多くの人を感動させられるのかという価値観が 「Hello, Again 〜昔からある場所〜」のギターリフへと繋がっていったのです。

藤井謙二はその後、元thee michelle gun elephantのドラマー、クハラカズユキ、ボーカルのチバユウスケらが結成したロックバンド、The Birthdayのメンバーに加入します。

加入後の2011年にリリースしたシングル「なぜか今日は」は、「今」を生きることを肯定するようにイントロからロックンロールなギターリフが日常の幸福感を綴る歌詞に彩りを加える、優しくて力強い1曲です。

そしてThe Birthdayは、昨年(2022年)公開の映画『THE FIRST SLAM DUNK』でオープニングテーマ「LOVE ROCKETS」を担当。「LOVE ROCKETS」ではイントロからソリッドなギターリフを炸裂させています。

「Hello, Again 〜昔からある場所〜」は、参加ミュージシャンがポップミュージックの魔法を信じ、繋いだ名曲と言えるでしょう。だからこそ、昭和、平成、令和と変わっていく時代の中で進化しながらも、変わらない大切なものが存在し続ける曲なのです。

カタリベ: 藤田太郎

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