JAXA、イプシロンロケット6号機打ち上げ失敗の原因を特定

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2023年4月18日、オンラインで開催された宇宙開発利用に係る調査・安全有識者会合にて、「イプシロンロケット」6号機打ち上げ失敗の原因究明結果を報告しました。【2023年4月19日12時】

【▲ 内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられたイプシロンロケット6号機(Credit: JAXA)】

イプシロンロケット6号機は内之浦宇宙空間観測所から日本時間2022年10月12日9時50分に打ち上げられましたが、燃焼を終えた第2段と第3段の分離可否を判断する時点で機体の姿勢が目標からずれていて、衛星を地球周回軌道に投入できないと判断されたため飛行を中断。同日9時57分11秒に指令破壊信号が送信されて、打ち上げは失敗しました。指令破壊された6号機の機体は、フィリピン東方の海上にあらかじめ計画されていた第2段の落下予想区域内に落下したとみられています。

機体の姿勢がずれた理由は、第2段に2基搭載されている姿勢制御用のガスジェット装置(Reaction Control System:RCS)の片方(+Y軸側)が正常に機能しなかったためであることが判明していました。ガスジェット装置はスラスタノズルからガスを噴射する時に生じる推力を利用してロケットや宇宙機の姿勢を制御するための装置で、複数のスラスタノズルを備えており、ガスを噴射するスラスタの組み合わせを変えることができます。

【▲ イプシロンロケット6号機の第2段に搭載されていたガスジェット装置(RCS)を説明した図。合計8基のスラスタが4基ずつ左右に配置されていた。JAXA資料から引用(Credit: JAXA)】

イプシロンロケットの第2段に搭載されているガスジェット装置は合計8基のスラスタノズルを備えていて、機体のロール角(回転)・ピッチ角(上下の首振り)・ヨー角(左右の首振り)を制御するために用いられます。イプシロンロケット6号機は第2段のエンジンが燃焼を終えるまでは姿勢を正常に制御できていたものの、第2段エンジン燃焼終了後の機体姿勢は目標値との誤差が増大していき、最終的な姿勢角誤差は約21度に達していた模様です。

関連:イプシロンロケット6号機打ち上げ失敗の原因は第2段の姿勢制御装置の異常(2022年10月19日)

4月18日の有識者会合にあわせてJAXAが公開した資料によると、第2段ガスジェット装置の推進薬(ヒドラジン)を貯蔵するタンクで製造時に生じたダイアフラム(ダイヤフラム)の損傷が、イプシロンロケット6号機の打ち上げ失敗につながったと特定されました。

イプシロンロケットの第2段ガスジェット装置は第1段が分離してから配管のパイロ弁(バルブ)が開放される仕組みになっていて、タンクに貯蔵されている推進薬は窒素ガスの圧力を利用してスラスタにつながる配管へと押し出されます。ダイアフラムはタンク内部で推進薬と窒素ガスを仕切る役割を果たす半球状のゴム製の部品です。

【▲ イプシロンロケット6号機の第2段に搭載されていたガスジェット装置(RCS)の系統概略図。ヒドラジンを供給するための配管やパイロ弁などは2基のガスジェット装置ごとに設けられている。JAXA資料から引用(Credit: JAXA)】

JAXAによると、タンクの製造時にダイアフラムを取り付ける際、ダイアフラムを固定するための部品とタンクの間にダイアフラムのシール部(気体や液体が漏れないように密閉性を確保する部分)が挟み込まれた状態で溶接作業を行うと、シール部が部分的に損傷してしまうことがわかりました。シール部が損傷したダイアフラムは仕切りとしての役割を果たせず、充填された推進薬はタンク内部のガス側に漏洩してしまいます。

すると、ダイアフラムは配管につながっている推進薬側の開口部(液ポート)へ覆いかぶさるように近接します。ダイアフラムが配管につながる開口部へ近接した状態でパイロ弁が開放されたことで、ダイアフラムが開口部に引き込まれて配管の閉塞が発生した結果、ガスジェット装置の片方(+Y軸側)が正常に機能せず、姿勢角誤差の増大につながったとみられています。

【▲ ダイアフラムによる閉塞を説明した図。製造時に生じた損傷部分から推進薬がガス側に漏洩したことでダイアフラムが配管につながる開口部(液ポート)に近接した結果、パイロ弁開放時に閉塞が発生したとみられる。JAXA資料から引用(Credit: JAXA)】

以上のことから、JAXAはイプシロンロケット6号機打ち上げ失敗の原因を「ダイアフラムシール部からの漏洩」と特定しました。その背景には使用実績のある部品に対する確認不足があり、今後は使用条件が想定と異なる場合はもちろんのこと、開発当時の設計の考え方や使用条件の根拠、製造工程・品質保証方法に立ち返って確認を実施することで、信頼性を向上させるとしています。

なお、現在開発が進められている「イプシロンS」ロケットについては以下の2案を検討し、設計に反映させるとしています。

・現タンクの設計変更:ダイアフラムシール部の設計・製造・検査改善と、ダイアフラムの閉塞防止対策を反映。

・H-IIAロケットのタンク活用:製造時にシール部の挟み込みが発生しない設計で、ダイヤフラム閉塞防止機構を備えているが、タンクの置き換えにともなう設計変更が必要。

また、イプシロンロケット第2段のガスジェット装置と同様のダイヤフラム方式を採用しているX線分光撮像衛星「XRISM」と小型月着陸実証機「SLIM」(どちらもH-IIAロケット47号機で2023年8月以降に打ち上げ予定)については、技術評価を行った結果、問題ないことを確認済みだということです。

Source

  • Image Credit: JAXA
  • JAXA \- イプシロンロケット6号機打上げ失敗原因調査状況について

文/sorae編集部

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