事業承継問題を抱える中堅、中小企業に投資「アイ・シグマ・キャピタル」日野広隆社長に聞く

日野広隆アイ・シグマ・キャピタル社長

丸紅系の投資ファンドであるアイ・シグマ・キャピタル(東京都千代田区)は「アイ・シグマ事業支援ファンド 4 号投資事業有限責任組合」を立ち上げた。

同組合は2023年3月に中小企業基盤整備機構(中小機構)と総額80億円で組合契約を締結しており、事業承継問題を抱える中堅、中小企業に投資し、投資先企業の成長や事業改革の手助けを行う計画だ。

どのような取り組みなのか、日野広隆社長にお聞きした。

問題解決で企業価値が大きく向上

―事業承継問題を抱える中堅、中小企業を投資対象にされています。改めてこうした企業に投資される理由をお教え下さい。

丸紅のバイアウトファンド事業(投資家から集めた資金で企業を買収し、価値を高めたうえで売却益を獲得するファンド)は、1997年にアドバンテッジパートナーズと共同でファンドを立ち上げたのが始まり。その後、2008年に子会社のアイ・シグマ・キャピタルで中堅、中小企業の事業承継をテーマにしたファンドを独自に立ち上げた。

わが社の投資スタイルはハンズオン(ファンドメンバーが投資先企業の経営に積極的に参画すること)型で、投資したあとも投資先の経営者と一緒になって、経営課題を考えたり、問題解決に取り組んだりしている。事業承継にあたり適切な経営者がいなければ、必要に応じて社外から連れてくることもある。

案件を担当するチームは3人が標準で、この3人の目がしっかりと届く範囲の企業規模を手がけていきたいという考えから、事業承継に課題を抱える中堅、中小企業への投資に注力している。これは社会のニーズとも合致していると考えている。

やってみると、中堅、中小企業は問題を解決すると企業価値に反映する効果が非常に大きいことが分かった。汗をかいた分の効果が手に取るように見える点は非常にやりがいを感じている。

―今回、中小機構が80億円を出資されました。

今回のファンドは4号で、2号から中小機構に出資していただいている。中小機構から出資していただいたことで、投資先を探す際に対象企業の方に安心してもらえる効果がある。また金融機関や生損保などのLP(有限責任組合員)投資家も、親会社の丸紅と中小機構がかかわっているということで安心感を持ってもらっているようだ。

―丸紅とはどのような連携をお考えですか。

大前提として、我々は投資家から資金をお預かりし、運用する立場にあるため、丸紅からは独立したファンド運営を行っている。ただ丸紅は子会社をたくさん持っていて、例えば会社の経営のやり方やガバナンスのやり方などの会社経営の基本的なノウハウを持っている。当社のプロフェッショナルの知見のみならず、こうしたことを教えていただいてファンド運営に活かしている。

また丸紅は多岐に渡った産業分野にかかわっているので、投資対象企業の業界についても多くの情報を持っており、地に足のついた情報を得ることができる。これによって案件を見極める精度がぐっと高まる。


まずは売上高の底上げ、組織作りを支援

―企業の選定方法や投資後の支援策などをお教え下さい。

過去においてキャッシュフローが安定的に出ており、今後も出てくる蓋然性については慎重に精査している。業種に特化していないため、検討初期はよく分からないこともしばしばあるが、スピード感を持って情報収集と理解を進め、どのような対策を行えば価値を高められるかを真剣に協議したうえで、投資するか否かを決めている。平均的な投資期間は3年から5年ほどだ。

投資後にはコスト削減はもちろんではあるが、売上高の底上げに特に注力する。これは単なるコスト削減では短期的な改善に留まるケースが多く、長期的な企業価値の向上には売上高の持続的な成長が不可欠と考えているからだ。当社では丸紅が世界各国に拠点を有していることもあり、同社のリソースを十分に活用しながら、投資期間中に海外で工場を新設し、売り上げを拡大させた例もある。

また、一部の中堅、中小企業では、会社規模や人材面の課題により、オーナーが全てを決めているようなところがある。そのような場合には、持続可能な企業体を目指して、組織としての意思決定や事業経営ができるような形を整えてあげることが、我々が最初にやることになる。会社がオーナーの指示がなければ動けないのではなく、責任と権限をはっきりさせることで、みんなが、それぞれ自分がやらなくてはならないことをやり始めるので、会社が生き物のように自律的に動き始めるようになる。

―事業承継に関しては多くのニーズがあります。人員の増強などはお考えですか。

若い人材を採用することを考えている。バイアウトファンドは一般に想像されるものとは違い、必ずしもかっこいいものではないが、直接事業に携われるので、手触り感があり、うまくいった時の達成感がある。また、わが社の売りは事業承継だが、今後は大企業のカーブアウト(ノンコアとなっている子会社や自社事業を切り出し、新会社として独立させた上で投資を行うこと)も強化していきたいと考えている。現在は経営陣も含めて20人程度でやっているが、年内には4、5人増やして、事業の拡大に取り組みたい。

―今回のファンドでは、総額500億円規模を目指すとされています。見通しをお聞かせ下さい。

多くの投資家の皆様からご関心をいただいており、遅くても今年度上半期には500億円程度を達成できそうだ。

日野広隆アイ・シグマ・キャピタル社長

【日野広隆氏】
1983年、京都大学経済学部卒、同年に丸紅に入社
2010年、同社 金融保険営業部⾧
2016年、同社 参与 生活産業グループ企画部⾧
2017年、同社 参与 食料グループ企画部⾧
2019年、アイ・シグマ・キャピタル取締役・執行役員
2021年、同社 取締役・専務執行役員
2022年、同社 代表取締役社⾧(現職)
1960年7月生まれ

文:M&A Online

M&A Online

M&Aをもっと身近に。

これが、M&A(企業の合併・買収)とM&Aにまつわる身近な情報をM&Aの専門家だけでなく、広く一般の方々にも提供するメディア、M&A Onlineのメッセージです。私たちに大切なことは、M&Aに対する正しい知識と判断基準を持つことだと考えています。M&A Onlineは、広くM&Aの情報を収集・発信しながら、日本の産業がM&Aによって力強さを増していく姿を、読者の皆様と一緒にしっかりと見届けていきたいと考えています。

© 株式会社ストライク