「知ったのは本人の死後」 金沢医大への3億円寄付訴訟で遺族会見

 東証プライム上場の大手機械メーカー「渋谷工業」(金沢市)の前社長、渋谷弘利さん(2021年死去)が入院していた金沢医科大学病院が、渋谷さんから3億円の寄付を受けたのは不当だとして遺族が訴えている件で、原告側遺族が会見した。寄付の件は当時家族に知らされず、死後に分かったという。

「知ったのは死後」「極めて異常」

 会見したのは代理人弁護士と原告の一人である渋谷さんの長女・毛利貴和さん。訴状によると、渋谷さんは社長在任中の21年1月にサウナで倒れ、同病院に入院。退院後の2021年5月、同大学に3億円を寄付。その後8月に再び入院し、10月に死去した。

 この間の経緯をより詳しく辿ると、渋谷さんには最初の入院時のMRI検査で脳の萎縮が見られ、さらに入院後は大声で叫んだり、看護師の処置を拒否するなど認知症とみられる症状が表れていたという。しかしこの時に認知症、あるいはMCI(経度認知障害)という診断はされておらず、また診断のために診療した形跡もみられない。21年5月にいったん退院したあと寄付が行われ、その後症状が悪化し再入院。10月に死去したが、この間家族に寄付の事実は知らされていない。遺族が寄付の事実を知ったのは死後で、不審に思った遺族は大学と昨年3月から民事調停で協議してきた。

 調停では、大学側は「渋谷さんから寄付の申し出があった」と主張。寄付された21年5月の時点で渋谷さんが認知症だったとの証明がないとして返還を拒否したため、昨年8月に決裂した。

 会見で、遺族側は入院時のMRI検査で脳の萎縮が見られたこと、当時から一般的に認知症によるものとみられる異常行動が現れていたこと、その後さらに症状が悪化していたことを外部の専門医に聞いたところ、「当時の渋谷さんの認知機能は自分の財産を管理できない程度だった」との見解を得られているとする。また当時、渋谷さんには多額の借入があり、にも関わらず寄付をしたことにも認知能力に疑問が残るとしている。なお遺族は約2億円の借金も相続し返済しなければならないという。

 会見で遺族の毛利さんは、大学側が家族に相談なく寄付を受け付けたのは極めて異常だと訴えた。また同席した代理人弁護士は、治療に当たっていた病院が、病状を把握していたにもかかわらず、それに乗じて寄付させたとして「準詐欺罪にも該当しうる」と述べ、今後刑事告発する可能性もにじませた。

 金沢医科大学は、遺族側の提訴について「本学は正当な手続きを経て寄付金を受け入れている」とコメントしている。

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