年老いた恒星に飲み込まれる惑星の最期 その様子を初めて捉えたか

マサチューセッツ工科大学(MIT)の天文学者Kishalay Deさんを筆頭とする研究チームは、年老いた恒星が赤色巨星へと進化する過程で惑星を飲み込む様子を観測したとする研究成果を発表しました。

寿命が近付くにつれて膨張した恒星が惑星を飲み込む可能性は何十年も前から予想されていましたが、その様子が実際に観測されたのはこれが初めてだということです。

【▲ 恒星の表面をかすめながら公転する惑星の想像図(Credit: K. Miller/R. Hurt (Caltech/IPAC))】

■多波長の観測データで迫った謎の増光の正体

研究チームが調べたのは「わし座」の方向約1万2000光年先で起きた出来事です。パロマー天文台(米国)の掃天観測システム「Zwicky Transient Facility(ZTF、ツビッキー・トランジェント天体探査装置)」で検出されたこの出来事および発生源の星は「ZTF SLRN-2020」と呼ばれています。

ZTFは同天文台のサミュエル・オスキン望遠鏡に取り付けられたカメラを使用して、超新星や彗星のような突発天体を検出するための観測を行っています。最近はZTFの観測で発見された「ZTF彗星」(C/2022 E3 (ZTF)、ズィーティーエフ彗星)が話題になりました。

関連:2022年発見の「ZTF彗星」が地球に最接近 二度と見られない彗星の姿(2023年2月2日)

ZTF SLRN-2020は2020年5月に、1週間ほどの間で100倍も明るくなり、再び暗くなっていった突発天体としてZTFに検出されました。当時はカリフォルニア工科大学(Caltech)の大学院生だったDeさんは、観測データからこの増光を見つけた時のことを「それまでに私が見てきたどの星の爆発とも違っていました」と振り返ります。

Deさんはもともと新星(Nova)を探していました。新星は白色矮星と恒星の連星系で起きるとされる現象で、恒星から白色矮星へとガスが降り積もり続けた結果、白色矮星の表面で水素の暴走的な核融合反応が起きると考えられています。星全体が吹き飛んでしまう「超新星(Supernova)」とは違って新星は繰り返されることがあり、短い場合は数十年間隔で出現することもあります。

ZTF SLRN-2020と名付けられたこの増光を詳しく調べるために、Deさんはハワイのマウナケア山頂にあるW.M.ケック天文台で取得された観測データを参照しました。ケック天文台では天体の化学組成を知るためにスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)を得る分光観測が行われています。

ケック天文台の観測データはDeさんを困惑させました。通常の新星は高温のガスに囲まれていて、恒星から流出した水素やヘリウムが検出されるはずです。ところが、ZTF SLRN-2020では水素とヘリウムは検出されず、データは星が低温のガスと塵に囲まれていることを示していたのです。「それが何を意味しているのか理解できませんでした」(Deさん)

【▲ 恒星ZTF SLRN-2020が惑星を飲み込む様子を示した図。恒星からガスを引き剥がしながらも公転し続けていた惑星(左)は、やがて恒星に飲み込まれて中心核へと落下し(中央)、恒星は外層が吹き飛んで4倍に膨張するとともに100倍明るくなったと考えられている(右)(Credit: K. Miller/R. Hurt (Caltech/IPAC))】

Caltechで博士論文を完成させたDeさんは、MITに移ってから再びZTF SLRN-2020の研究に取り組みます。発見から約1年後、Deさんは共同研究者たちとともに、パロマー天文台やアメリカ航空宇宙局(NASA)の赤外線天文衛星「NEOWISE」で取得された赤外線の観測データを分析しました。ZTFは人にも見える可視光線で突発天体を観測しますが、人には見えない赤外線を利用することで、より低温の物質の様子を探ることができます。

分析の結果、ZTF SLRN-2020は可視光線だけでなく赤外線でも明るくなっていたことが判明しました。赤外線の増光はZTFが可視光線での増光を捉える約9か月前から始まっており、ZTFでの発見から1年後も続いていたというのです。

赤外線はZTF SLRN-2020の周囲に存在する塵から放出されているとみられており、この出来事が天体どうしの合体だった可能性を示していました。ただし、可視光線での増光(ZTFで検出)の後に放出されたエネルギーの総量を研究チームが見積もったところ、過去に観測された恒星どうしの合体と比べて約1000分の1も低いことがわかりました。

「つまりこの星と合体した天体は、これまでに合体が観測されたどの星より1000分の1も小さくなければならないのです。そして偶然にも、木星の質量は太陽の質量の約1000分の1です。その時、私たちは惑星が恒星に衝突したのだと気が付きました」(Deさん)

■太陽系の未来を示唆する“惑星の最期”を伝える閃光

【▲ カリフォルニア工科大学による今回の研究成果の解説動画(英語)】
(Image Credit: K. Miller/R. Hurt (Caltech/IPAC))

これらの観測データをもとに、研究チームはZTF SLRN-2020を以下のような出来事だったと結論付けました。

もともと太陽に似た恒星だったZTF SLRN-2020の周囲では、水星よりも近いところを木星サイズと推定される惑星が公転していました。誕生から約100億年が経ち、中心部の水素を核融合で消費し尽くした恒星は膨張し始め、赤色巨星へと進化する段階に入ります。恒星の表面が惑星の公転軌道に迫ると、惑星の重力によって恒星表面からガスの一部が引き剥がされるようになります。

宇宙空間に放出されたガスはやがて温度が下がり、塵が生成されます。ZTFでの検出に先立つ赤外線の増光は、この過程で生成された塵によるものとみられています。塵の中には崩壊していく惑星から放出された物質も含まれていたことでしょう。

やがて惑星は膨張する恒星に飲み込まれ、恒星の中心核(コア)へと飛び込みます。惑星衝突時のエネルギーが放出さたことで恒星の外層は吹き飛び、直径は衝突前の4倍に膨らんだとみられています。ZTFで検出された可視光線の増光は、この時に放出された閃光だったと考えられています。膨らんだ恒星の外層からは一部のガスが脱出して離れていき、衝突前のように塵が生成されたことで、ZTFでの検出後も赤外線の増光が観測されることになったとみられています。

ZTFなどで観測された“惑星の最期”は、およそ50億年後の太陽系で起こる出来事を示唆しています。太陽もまた赤色巨星へと進化する過程で膨張し、水星、金星、地球を飲み込むと予想されているからです。「私たちは地球の未来を見ています」(Deさん)

ただ、仮に50億年後の太陽系を誰かが観測したとしても、地球最後の瞬間はZTF SLRN-2020ほどの出来事としては記録されないだろうともDeさんは語ります。質量は地球のほうがずっと小さいからです。

「地球が飲み込まれる様子を他の文明が1万光年離れた場所から観測したら、太陽が何らかの物質を放出する時に突然明るくなり、元の状態へ戻る前にその周囲で塵が生成される様子を見ることでしょう」(Deさん)

NASAのジェット推進研究所(JPL)によると、太陽のような恒星の多くは赤色巨星に進化するものの、惑星を飲み込むのはそのうちの一握りだと推定されています。今回の成果は惑星が飲み込まれる時にどのように観測されるのかを示し、同様の出来事をより多く発見する可能性を開くものだと受け止められています。

Source

  • Image Credit: K. Miller/R. Hurt (Caltech/IPAC)
  • MIT \- In a first, astronomers spot a star swallowing a planet
  • Caltech \- Star Eats Planet, Brightens Dramatically
  • NASA/JPL \- Caught in the Act: Astronomers Detect a Star Devouring a Planet
  • W.M.Keck Observatory \- Star Eats Planet, Brightens Dramatically
  • De et al. \- An infrared transient from a star engulfing a planet (Nature)

文/sorae編集部

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