米シンクタンクが安倍元首相を「日本の歴史上最も偉大な首相、世界のリーダー」と大激賞!|岡部伸 米シンクタンク「ボストン・グローバル・フォーラム」が、安倍晋三元首相を追悼する国際会議を開催、会議を主宰するマイケル・デュカキス元米マサチューセッツ州知事は「世界を平和と安定に導くリーダーシップを発揮した安倍氏を失ったことは大変残念だ」と悼んだ。

日本のみならず世界のために貢献

「安倍首相が主導した世界平和と安全保障への多大な貢献と遺産は、より平和で公正な世界を築くため努力する私たちを導き続けるでしょう。安らかにお眠りください。そして世界へのかけがえのない貢献に感謝申し上げます」

米シンクタンク「ボストン・グローバル・フォーラム」(BGF)が4月6日、東京・虎ノ門のホテルオークラで開催した安倍晋三元首相を追悼するオンライン国際会議。会議を主宰する会長のマイケル・デュカキス元米マサチューセッツ州知事が安倍元首相を悼む開会の辞をハーバード大のトーマス・パターソン教授が代読して始まった。

「日本のみならず世界のために貢献した安倍首相のご冥福を謹んでお祈りしたい」

BGFの共同創設者兼CEOのベトナム人、グエン・アン・トゥアン氏が挨拶すると、全員が起立して左胸に右手を当て1分間の黙とうを捧げた。

1988年の米大統領選に民主党から出馬した民主党の重鎮であるデュカキス元州知事とベトナムでインターネット・プロバイダー事業を成功させたトゥアン氏らが2011年に創設したBGFは、2015年から平和と世界の安全のための指導者賞を創設、同年12月、第1回受賞者としてドイツのメルケル前首相とともに安倍元首相を選び、世界のリーダーとして表彰している。ちなみに22年は、ウクライナのゼレンスキー大統領とすべてのウクライナ国民を選んだ。

米上下両院合同会議演説が転機

リベラルの牙城であるBGFが安倍元首相を高く評価することに疑問を感じる方がおられるかもしれない。転機は同年5月、訪米した安倍元首相が日本の首相として初めて米上下両院合同会議で行った演説にある。日本の民主主義を強調し、対米協調路線を明示して、先の大戦についても謝罪一辺倒の姿勢を見せることをやめた。戦死した米兵に哀悼の意を表した上で、敵国から同盟国となった日米の「心の紐帯」を訴え、米議員は総立ちで拍手を送った。「希望の同盟」を提唱すると、それまで安倍元首相のことを「歴史修正主義者」「右翼ナショナリスト」とレッテルを張っていた米有力紙は絶賛した。

当初、安倍元首相の世界観、安全保障観に共鳴したのは、保守の共和党だった。オバマ政権が中国との関係を深める関与的な協調路線を採ったため、民主党には「親中派」の議員が多かった。ただ「親中」の民主党重鎮たちも、一方的な現状変更を試みる中国の覇権志向に眉を顰め、安倍元首相の「希望の同盟」に共感を抱くようになった。

かくして、共和党のみならず民主党も安倍元首相を民主主義、日米同盟という共通項で共存していくよきパートナーとして快く丁重に迎えたのだった。

地球規模の指導者

それでもBGF会長のデュカキス元知事は安倍元首相への警戒が強かった。同年12月にBGFで「平和と世界の安全のための指導者賞」の第一回受賞者候補に安倍元首相の名前があがった際、「政治的立場が異なる」と賛成を留保。

そこでBGFの共同創設者のトゥアン氏がベトナム人の立場からアジアの現状を説明した。

「安倍元首相が太平洋、とりわけ尖閣諸島を含む東シナ海、南シナ海の平和と安全の維持に重要な役割を果たし、日本はアジアの平和に多大な貢献をしている」

その事実を知りデュカキス元知事の安倍元首相への評価は変わった。

南沙諸島での人工島建設や西沙諸島での地対空ミサイル配備など目覚ましい経済発展に伴い軍事力を拡大させた中国の強硬な海洋進出に伴い、東シナ海と南シナ海で緊張が高まったことも大きかった。
中国が世界秩序を乱す覇権的な行動を繰り返すにつれ、対抗する地球的規模の指導者として安倍元首相への敬意が高まったという。

国際協調主義に基づく「積極的平和主義」による外交、安保政策の評価が高まり、安倍元首相が提唱する外交構想「自由で開かれたインド太平洋」構想がトランプ、バイデン両政権の共鳴を呼び、米国の主要政策として採用された。主権国家が他国の政策を採用するのは極めて異例である。これ以降、この構想が世界各国に広がった。

こうして米国では安倍元首相は「日本の歴史上、最も偉大な首相と認識される」(トランプ前大統領)との評価が固まった。

「安倍晋三平和安全保障イニシアチブ」を創設

昨年7月8日、安倍元首相が奈良で非業の死を遂げると、トゥアン氏は、デュカキス元知事らと協議してBGFが「〝親しい友人〟安倍氏の遺産である世界平和と安全への貢献を称え、その使命を続けよう」と「安倍晋三平和安全保障イニシアチブ」を創設、これを軸に世界中のリーダーや専門家との連携を促進して、安倍元首相の遺産を引き継いでいくことを決めたのだった。

昨年11月には、「世界における日本の平和と安全保障」を題材にオンライン国際会議を開催し、世界に広がった「自由で開かれたインド太平洋」構想など外交・安全保障の功績を再確認したのに続いて、4月5日、安倍元首相をグローバルな啓蒙リーダーとして称え、「人工知能(AI)、デジタル、データが重要な役割を果たすグローバル啓蒙時代の日本経済を偉大に」をテーマに2回目の国際会議を開催した。

経済をテーマに選んだ理由をトゥアン氏はこう説明した。

「台頭する中国を抑えるには、米国、日本、インド、欧州など西側民主主義国家が強さを維持して対抗する必要がある。そのためには日本の経済的成功が極めて重要。デジタルやデータが中心となる時代、世界経済における日本の優位性を支えるには、安倍元首相の遺志を継ぎ、アベノミクスを維持・継続することが不可欠だと考えたからだ」

米国にとって現状変更を試みる中国を抑止するには日本経済の再生が欠かせない。とりわけAIなどの次世代技術や5G(第五世代移動通信システム)などのデジタル分野で中国が世界をリードし、情報通信を通じて浸透することへの警戒感が強いことが背景にある。

民主主義先進国の手本となる人物、世界を主導する真のリーダー

4月6日に開催されたオンライン国際会議に話を戻す。

「日本は危機が生じないと構造改革ができない。成長率を上げることはできないと何年も主張されてきたが、危機が生じる前に必要な改革を成し遂げた稀有な宰相であった」

マクロ経済政策の世界有数の専門家で、米国を代表する経済系シンクタンクのピーターソン国際経済研究所(PIIE)所長、アダム・ポーゼン博士が安倍元首相の功績を称え、「民主主義先進国の手本となる人物だった」と賛辞を贈った。

具体例として農業や女性の労働参加率の向上による労働力人口、環太平洋連携協定(TPP)協定におけるリーダーシップ、技術革新の推進などが大きく改善されたことをあげた。とりわけ通商政策TPPをまとめ上げたことを高く評価。

「米国が脱退後、日本が多国籍機関を牽引し、自由貿易のルールを維持したことは安倍元首相が世界のリーダーだったことを裏書きし、アジア、太平洋から英国まで広がる高度な自由貿易圏の構築に主導的な役割を果たした」

さらに「安倍首相と日本は自由で開かれた世界経済の揺るぎない支持者だった」と指摘し、WTO体制を補完し、より深い経済統合の実現を目指した安倍元首相は「日本が自国の利益を追求することと共同体経済を追求することを両立することにも成功し、世界を主導する真のリーダーとしてのあり方を示した」と論評した。

また米中の角逐が激しさを増す中で、世界を二分することに前向きでなかった包摂的な外交姿勢を称賛した。

「安倍元首相はインド太平洋とクアッドの父」

「安倍元首相が提案したDEFTを支持する」

安倍元首相が19年にダボス会議で提唱した「信頼性のある自由なデータ流通、DEFT(Data Free Flow with Trust)」に対してこう賛意を表したのが、オバマ政権時代の2013年6月、商務長官代理を務めたキャメロン・ケリー氏だ。

DEFTは、世界経済の発展にかかせない喫緊の課題となっている。ケリー氏は、欧州連合(EU)に続き、米国でも情報保護法案が策定されつつあり、AIについて国際基準を策定する必要があるとも指摘した。このため「DEFTはより具体的な成果をもたらすよう引き継がれるべきだ」と指摘する。

DEFTは、国際的な法的枠組み(国際ルール)の構築が焦眉の急となっている。TPPに続き、データ流通でも安倍元首相の遺志を継いで自由と民主主義、法の支配の価値を守るDEFTの実現で日本は国際秩序づくりを主導すべきだ。

国際ルール作りには世界各国との協力が欠かせない。安倍元首相の突然の訃報を受けて、いち早く全土で半旗を掲揚し、弔意を示したインドでは、安倍元首相は「インド太平洋とクアッドの父」と呼ばれ、その功績が絶賛されている。「インド太平洋」という戦略概念を提唱し、インドの地政学的可能性を世界に広めたためだ。

IT大国インドで政府がデジタル・トランスフォーメーション(DX)を公共分野で実現する公共デジタルインフラ「インディア・スタック」を完成させた「iSpirit」のグローバル・アンバサダー、サンジェイ・アナンダラム氏は、データ分野でも日印がパートナーになれると強調。インド全域で12億人の全国民にID登録させたという。

「インドは健康・教育、クレジット決済、ドローン、電子商取引など多様性に富んだデジタル公共財を開発し、導入するリーダーとして注目され、世界中に低コストかつ迅速に提供している。デジタル公共財のほとんどはアフリカやアジアの発展途上国に提供されている。日本ともデータプライバシーのみならず、データのエンパワーメントと保護に取り組む機会が十分にある。日本では高齢化や人口減少が進んでいるが、インドは世界最大の若年人口を抱え、世界のAI開発者の12%を有して可能性に満ちている。日本のAIやセキュリティに関する専門的な技術とインドが持つ可能性を組み合わせば、素晴らしい協力ができ、大きな成果を得られる」

アベノミクスの完遂を目指せ

オンライン国際会議ではアベノミクスも議題にのぼった。

安倍元首相が昨年7月、奈良で凶弾に倒れると、英BBC放送は次のように報じた。

「8日に暗殺された安倍晋三元首相は、日本経済の転換を目指していた。20年晩夏に退任するまで、日本の首相を最も長く務めた。在任中に最も注目された政策は、おそらく『アベノミクス』だろう。一連の景気刺激策と大規模な改革は、世界3位の経済大国を確かに活性化させた。(中略)政治的なブランディングとしては、アベノミクスは確かに成功した。ただ、安倍氏が掲げた主要な経済目標は達成できなかった」

こうした言説に対して「目標のデフレ脱却を達成できておらず、いまだ道半ばだ」と反論したのは、経済政策のブレーンとして内閣官房参与を務めた本田悦朗氏だ。「率直に言ってアベノミクスの成功は苦難の道であり、今後も様々な点を改善していかねばならない」と語気を強めた。

「消費と投資の活性化だけでなく、イールドカーブコントロール(YCC)による少子化の解消など、マクロ経済の活性化を続けていく必要がある。将来的には、2%の物価安定目標や完全雇用とともに、新しい雇用や前向きな転職が積極的に行われ、国民がお金を貯めるのではなく消費する社会の実現を目指す。このためには、マイルドなインフレによって経済が成長し続けることが必要不可欠だ」

「アベノミクは経済学者やマスメディアに批判されているが、いくつかのハードルを超えることでの使命を果たせると確信している」

アベノミクスの貫徹を訴えた。

日本はまだまだ世界で輝ける

さらに、「日本をもう一度偉大に、面白くする」と題して、「悲観論もあるが、日本はまだまだ素晴らしい」と述べたのは、3月まで日銀副総裁を務めた早稲田大学教授の若田部昌澄氏だ。

今年2月、約10年の勤務を終えた英BBC放送のルーパート・ウィングフィールド・ヘイズ東京特派員が、「日本は未来だった、しかし今では過去にとらわれている」との「卒業論文」をデジタルニュースに書いたところ、1月20日の公開から2日間で閲覧数は300万に達するなど大きな反響を呼んだ。

しかし、若田部氏はこれにこう異議を唱えた。

「アベノミクスで労働人口の増加率は雇用率とともに向上し、雇用者数が増え、一人当たりの成長率も高くなった。もちろん女性や高齢者の働きも増え、デフレにはなっていない」と述べ、すでにデフレを脱却したとアピールし、「野球のWBCで活躍した米大リーグ・ロサンゼルス・エンゼルス所属の大谷翔平選手のような若者も出て来た。マンガやアニメ、カツカレーライス(英国)、ラーメンのソフトパワーも世界で輝きを持っている」「出生率も中国の1・2%や韓国の0・8%に対し、1・3%とそれほど悪い数字ではない。日本は今後もさらに成長を見込むことができる。まだまだ世界で輝ける」

これまで日本は「奈良時代、明治時代、第二次世界大戦後」の三つの時代に大きな成長を成し遂げた。今一度大きく成長する四度目の「Great Opening」が求められているという。

「他国に追いついていく余地はまだまだある。アベノミクスの完遂も変わらず目指さなければならない。そのためには、注意深く検討しながら市場をオープンにし、さらなる競争を喚起する政策が必要だ」

焦る必要はない。日本の良さを再認識して市場を開放し、競争を喚起してアベノミクスを淡々と進めていくことが肝要であると説いた。

中国の覇権を止められる政治家は安倍晋三以外にはいない

会議途中から参加したBGF会長のデュカキス元知事は、安倍元首相が「世界的な啓蒙リーダーだった」と敬意を表した。

「類まれな指導力で国際社会を束ねた安倍氏を悲劇的な暗殺で失い悲しく残念だ。ロシアの侵攻で新冷戦といえる困難な時代を迎えた国際社会は、安倍氏のリーダーシップとコンセプトを受け継ぎ、協力して国際問題に対処できるように努力していかねばならない」
国際問題とは様々な中国の脅威に他ならない。

トゥアン氏も続けた。

「世界を導いた安倍氏のリーダーシップは平和に重要だった。そのレガシーを引き継ぎ、より円滑にスマートに団結しなくてはならない。そして安倍氏を称えることで日米関係がさらに緊密になることを期待してやまない」

これほどまでに安倍元首相を高く評価するのは、米国が中国の覇権を止められる政治家はほかにいないと考えたからかもしれない。デジタル・データ分野でも中国が世界をリードし、IT技術を通じて「見えざる脅威」への恐怖心が強くなっている。

だとすると、国際社会が安倍元首相の遺産を引き継ぎ、民主主義国は一層、結束して抑止力と技術力を高め、中露による世界秩序の破壊に備えなければならないだろう。安倍元首相なき時代の歩むべき道は、安倍元首相が示してくれている。

「今後もデュカキス元知事、トゥアン氏らと力を合わせて世界の指導者だった安倍元首相を称えるシンポジウムを開催したい」。ボストン・グローバル・フォーラム日本代表の三田伸江氏は、意欲を語った。

岡部伸

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